胃食道逆流症の患者さんは
胸やけなどの自覚症状に悩まれて医療機関を受診され
なんらかの治療を受けられることが多いですが

治療せずに放置したら 
どうなるのでしょう?

軽度の場合は 
5~10年でほとんど変化がないか 
自然軽快する場合が多い
と報告されています

しかし 
重症化すると症状も悪化して 
QOLが著しく低下します

ですから 
自覚症状が気になる場合は 早目に医療機関を受診され
的確な診断 適切な治療を受けられることをお勧めします


また 放置すると 
合併症が発症するリスクがあります

代表的な合併症としては
食道からの出血 食道狭窄 バレット食道などで
欧米での報告はとても多いのですが 
日本人の頻度は不明です

ここで バレット食道 について説明します

バレット食道の内視鏡所見

というのも

健康診断や人間ドッグで内視鏡検査を受けられ
たまたまバレット食道が見つかることがあるからです

バレット食道は 
それほどポピュラーな病気ではないので
消化器専門医でないと知識がないこともあり

指摘された患者さんが 
きちんとした説明を受けられず
心配になる場合が少なくないからです


<バレット食道とは?>

食道粘膜表面の扁平上皮が変質し
胃粘膜に似た円柱上皮に
置き換えられてしまう状態で

食道に 
バレット粘膜(胃から連続性に伸びる円柱上皮)
が存在しています


バレット食道では胃粘膜が食道に侵入していることを示す図

@原因

胃の内容物の逆流が
繰り返されることで起こると考えられていて
胃酸 胆汁の食道への逆流が 
発生に関与します

胃食道逆流によって食道に生じた炎症が
修復される際に
胃と食道の境目なので
扁平上皮でなく
円柱上皮が出てきてしまうようです


バレット食道の状態について説明する図

バレット食道を予防するためには
逆流性食道炎を
きちんと治療することが大切です

胃食道逆流症の 
胸やけの期間 重症度 頻度が
バレット食道発症のリスク要因になり

20年以上にわたる強度の胸やけは 
発症率を43倍も高めます


@分類

バレット食道は バレット粘膜の長さなどにより

LSBE 全周性に3cm以上
     頻度は1%以下(平均0.4%)

SSBE 3cm未満か 非全周性  
     頻度は17.9%

の ふたつのタイプに分類されます


@食道腺癌との関係

食道炎患者の20%でバレット食道となり
そのうち1%に食道腺癌が起こり得る 
と報告されています

食道腺癌は 稀な食道癌です

食道癌の多くは
扁平上皮癌なので 腺癌は稀です

欧米では
バレット食道が腺癌につながる危険性があると考えられており
特に白人男性に多いとされています

発癌率は
LSBEでは年間0.4%で 
欧米では報告数が増加傾向にあり

5cmを超えると0.6%との報告もあります

SSBEでは0.4%より低いと考えられています

バレット食道のがんへの移行性は低いことを示す図

このように

異型上皮を有する症例などの
一部のバレット食道症例が発癌リスクを有するのであって

バレット食道全体が発癌母地になるわけではありません

また 東洋人の食道腺癌は少なく
日本人では 今のところ
バレット食道と食道腺癌の関係は はっきりしていません

ですから
バレット食道と指摘されても 
過度に心配する必要はありませんし
内視鏡による経過観察の必要性は 現時点では不明です

ただ 患者さんは不安でしょうから
年1回~数年に1回の内視鏡検査で
経過観察するのが良いかもしれません


高橋医院