胃食道逆流症の手術・内視鏡治療
胃食道逆流症のシリーズの最終回です 生活習慣の改善を頑張っても PPI治療などの薬物治療を試みても どうしてもうまく効果が上がらない患者さん 再発を繰り返す患者さんには 手術療法という選択肢が残されています <腹腔鏡手術> 欧米では日本に比べて 積極的に手術が行われており 最近は腹腔鏡を使った手術が増え その有用性が報告されています 主たるものは Nissen手術と呼ばれる 腹腔鏡下で行われる 酸逆流防止手術の噴門形成術で 食道から胃へ食物が一方通行し 逆流が生じないようにするために 食道裂孔ヘルニアを修復し 下部食道括約筋(LES)の機能強化を行います PPI抵抗性の患者さんでは健常人に比べ 食道裂孔の穴の大きさが 3倍ほどにも拡大していることが多いそうで その裂孔を通って 横隔膜の上部に移動している 胃食道接合部(胃の噴門部)を腹部に引き戻してから 緩んだ裂孔を縫って縮めます ついで 腹部食道に胃の上部(穹窿部)を巻き付けて 下部食道括約筋(LES)の補強を行います この巻き付け方を *全周性に行うNissen法 *あまり強く締め付けず270度ほどに留める亜周性のToupet法 のふたつが 代表的な手術法です より高度な酸逆流防止効果は Nissen法が秀でていますが 術後早期にみられる 嚥下障害や腹部膨満を回避するには Toupet法が適しています また 5年以上の長期成績においても 両者の治療効果の差は認められていません いずれの手術も 開腹せずに腹腔鏡下で行うため 患者さんへの負担が少なく 約2時間で終了する安全性の高いものです PPIを用いた維持治療との比較では 少なくとも術後1年間の観察において *自覚症状の改善 睡眠障害や呼吸器症状の改善 *24時間食道pHモニタリングにおける酸 胆汁の逆流の改善 などが PPI治療より有用との報告もあります この手術の適応となるのは *PPIを用いた初期治療に抵抗性を示す症例 *長期的なPPI維持療法を要するびらん性の症例 です 長期維持療法を必要とする症例に 薬物治療を継続するか 手術を選択するかは 判断が難しい面もあります *長期にわたる服薬の煩わしさを 患者さんがどう感じられているか? *新たなPPIのC-CABの長期服用の安全性の検証 *治療にかかる個人的 社会的な経済コストは どちらが安価か? これらの点について PPIの長期投与と外科治療の比較を行うことが重要です こうした点を検討した外国の多くの研究では PPIの長期必要例における外科手術の適応が支持されていますが 一方で 一部の研究では外科手術の積極的な適応に疑問が呈されています 現在日本では 欧米ほど手術療法は盛んではありませんが 更なるデータの積み重ねにより 新たなガイドラインの作成が待たれるところです <経口的内視鏡的治療> 2003年頃から 胃食道逆流症に対する内視鏡的治療が 欧米を中心に盛んに行われるようになっています 特に 食道裂孔ヘルニア孔の大きさが 3cm程度でそれほど大きく拡大しておらず 胃の横隔膜上への滑脱が重度でない症例では より侵襲の少ない内視鏡的治療が適応となると考えられます 内視鏡的治療の手法は 10種類以上ありますが *胃の噴門部にひだを形成する手法 *下部食道括約筋(LES)の筋層を変性させる手法 *LES領域に異物を挿入する手法 などが代表的で それぞれ 一定の治療効果を認めているものの 長期にわたる治療効果の維持に関しては 未だ明らかになされていません 今後のさらなる検討が望まれ 期待されています
高橋医院