胃食道逆流症の治療は

胸やけなどの自覚症状を改善させるための 初期治療

引き続き 寛解状態を維持させるための 維持治療

の ふたつのフェーズがあります

<初期治療>

前回 解説したPPIを  8週間連続して投与して
自覚症状の完全消失を目指します

初期治療についてまとめた図

<維持治療>

食道粘膜の傷害が軽度な場合は
生活習慣の改善を継続して行えば 
薬の継続は不要なことが多いです

しかし 粘膜傷害が高度の場合は
薬をやめると 
食道狭窄や バレット食道につながるリスクがあるので

症状が改善しても 
薬を続けて維持療法を行うのが望ましい


維持治療についてまとめた図


特に重症のびらん性の場合は
維持療法をしないと 
ほぼ確実に再発すると報告されています


重症例は再発しやすいことを示す図


<オンデマンド療法>

最近 注目されている 
維持治療の新たな方法です

初期治療により症状が消失した後に

患者さん自身の判断で 
症状が出そうな時点 
実際に出た時点で服用を開始し
良くなったら薬を中止する

という 治療の方法です

オンデマンド療法についてまとめた図

前回 解説したC-CABは 
速やかに効果が現れるので(数時間で症状改善)
オンデマンド療法に適しています

オンデマンド療法の対象となるのは

*軽度のびらん性

*初期治療に反応する非びらん性

の症例です


オンデマンド療法の適応例についてまとめた図


<PPI抵抗性胃食道逆流症>

胃食道逆流症の治療で臨床的に問題となるのは
PPI治療に抵抗性を示す症例の治療です

PPIを8週間服用しても

*食道粘膜障害が治癒しない

*逆流症状が十分に改善しない

のいずれかがある場合で

胃食道逆流症全体の30%程度が 
PPI抵抗性といわれています

原因として考えられているのが

*PPI代謝酵素の遺伝子多型

*不確かな服薬状況 
 薬剤投与のタイミング 薬物相互作用

*酸以外物質の逆流 胆汁の逆流

*食道の過敏性亢進

*心因性要因が絡む 
 内臓知覚過敏の関与

などで

約半数は逆流と関係しますが
その20%が酸の逆流 
80%が非酸の逆流によると報告されています

こうした症例には 
消化管運動賦活薬 外科手術も考慮されます


また 残りの半数は 
機能性胸やけ
こうした症例には 
抗不安薬や抗うつ剤の投与も考慮されます


PPI治療に抵抗性を示す症例についてまとめた図

最近は 機能性胸やけは
以前に解説した機能性デイスペプシアとの
関連も示唆されているからです

NERDと機能性デイスペプシアの関連を示す図


<治療の注意点 今後の問題点>

最後に 
胃食道逆流症の治療の注意点 今後の問題点を解説します

まず

@この病気は 症状が改善しても再発しやすいので
 日頃から 生活習慣や食事に気をつけることが大切で
 薬物治療を自己判断でやめないことも重要です

維持療法での薬の長期服用の安全性については
PPIが使用されるようになってから
20年以上経過しますが

長期投与による副作用・有害事象は
ほとんどないため
維持療法の安全性は高いと考えられています


治療についてまとめた図

@一方 腸内細菌叢の健康に及ぼす影響が
 明らかにされてきた近年は

長期にわたり
胃酸分泌抑制薬を使用し続けると
胃液の殺菌作用の減弱により 
腸内細菌叢の変化をきたす可能性があり
それにより 
さまざまな障害が生じ得る可能性が指摘されています

そうした視点から
胃酸分泌抑制薬は最小限度の容量での使用が望ましく
維持療法も必要な症例に限って行うべきとの意見も 
みられるようになりました

また 非常に治療効果が高いP-CABを
維持療法の第一選択薬として用いるべきか 
現在 検討されています


書き手の個人的な意見としては

適切な初期治療で
しっかりと自覚症状の改善が得られたら
維持療法はオンデマンドにして
個々の患者さんの自覚症状の状況を見ながら
薬物治療方針を検討していくべきと考えています


治療後の定期的な検査については

PPIを8W服用後に 
原則的には内視鏡検査を行い
食道粘膜の傷害の改善の程度を評価し

軽症では 
その後の定期的な内視鏡検査は不要で

重症では 
狭窄やバレット食道の早期発見のために
1~2年ごとに内視鏡検査を行うべきと
推奨されています

また 
治療反応性が悪い症例 
治療中に自覚症状が増悪する症例では
すみやかな内視鏡検査が勧められています
高橋医院