今日は 胃食道逆流症の治療で
使われる薬について解説します

<酸分泌抑制薬>

胃食道逆流症は 
食道への病的な酸逆流によって起こる病気です

胃酸の食道への逆流を示す図


ですから 
胃酸の分泌を抑制する薬が 
治療の第一選択薬になります


治療についてまとめた図

びらん性胃食道逆流症の重症度は
食道内の酸暴露時間 pH(酸の強さ)
に相関するので

より強力で持続的な酸分泌抑制作用を有する薬剤
より早期の症状消失 高い治癒率をもたらします

酸分泌抑制薬には

*ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)

*プロトンポンプ阻害薬(PPI)

の2種類があります

2種類の胃酸分泌抑制薬の特徴を示した図

@ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)

胃の分泌腺にある壁細胞には
ヒスタミンが結合すると
胃酸が分泌されるH2受容体があり

H2RAは 
ヒスタミンがH2受容体に結合するのを妨げることにより
胃酸の分泌を抑えます

H2RAの作用機序を説明する図

H2RAは 
最初に開発された酸分泌抑制薬ですから
胃食道逆流症にも 
第1選択薬として使われてきました


@プロトンポンプ阻害薬(PPI)

やがて 
より強い酸分泌抑制作用を有する
第2世代の酸分泌抑制薬として 
PPIが登場してきました

胃の分泌腺にある壁細胞には
胃酸を分泌するプロトンポンプ
という部分があり

PPIは 
プロトンポンプの働きを妨げ 
胃酸の分泌を抑えるのです


PPIの作用機序を説明する図

そして 
胃食道逆流症に対する治療効果は
PPIがH2RAを上回ることが明らかになりました

PPIの方が 
より高い治癒率 早期の症状寛解効果を示し

12週投与での治癒率は 
プラセボ 28% 
H2RA 52% 
PPI 84%

症状の寛解率は 
H2RA 48% 
PPI 77%
でした

PPIは 自覚症状がある時だけでなく
再発を繰り返す場合は
再発防止のために服用し続けることもあります


但し 重症例は 
PPIをもってしても 
軽症例に比し治癒しにくいのが現状です


<PPIの作用に影響を及ぼす薬物代謝酵素の遺伝子多型>

PPIは肝臓で代謝されたものが 
薬として機能を発揮するので
効果発現までに数日を要します

さらに 
肝臓でPPIを代謝する酵素はCYP2C19
これには遺伝子多型が存在し

*代謝活性が高いhom EM 

*中等度のhet EM 

*低いPM

に分かれます

CYP2C19の遺伝子多型がPPIの代謝に及ぼす影響を示したグラフ

PMの遺伝子多型を有する患者さんでは
PPIの治癒率が有意に低いので 
注意が必要です

CYP2C19の遺伝子多型がPPIの代謝に及ぼす影響について解説した図


<新タイプのPPI>

2015年に
新しいタイプ(カリウムイオン拮抗型)のPPIである
P-CAB・ボノブラサン(商品名:タケキャブ)が
使用できるようになりました

タケキャブのパンフレット

P-CABは
カリウムイオンがプロトンポンプに結合して
胃酸を分泌させるのを抑制することで
従来のPPIより
明らかに強力な酸分泌抑制作用を有しています

タケキャブの作用機序を示した図

また
肝臓で代謝されて初めて効果を発揮する
従来型のPPIと異なり
すぐに作用が発現するので 
症状の緩和にもより有効です

従来のPPIに抵抗性を有する症例への
効果が期待されています

書き手も 
切れ味の良い薬という印象を持っていて
当院でもP-CABを用いた治療をされている方が 
たくさんおられます

現在 
どのような患者さんに
P-CABを第1選択薬として投与すべきか
P-CABを用いた長期の維持療法の有効性と安全性について
検討されています


<酸分泌抑制薬に併用され 効果の上乗せを期待される薬>

酸分泌抑制薬に併用され 
効果の上乗せを期待される薬には
以下のようなものがあります

効果の上乗せを期待される薬について説明する図

@粘膜保護薬

食道粘膜を覆って 
逆流してきた胃液から食道を守り
炎症の改善を助ける薬ですが

効果のある時間が短いため 
胃酸分泌抑制薬と一緒に使われます

粘膜保護薬 制酸薬の説明図

@制酸薬

胃で分泌された胃酸や 
食道に逆流してきた胃酸を中和して
食道粘膜が傷害される程度を軽くし
症状を速やかに和らげる働きがあります

粘膜保護材と同様 
効果のある時間が短いため
胃酸分泌抑制薬と一緒に使われます

@消化管運動賦活薬

PPI投与で胸やけは改善しても 
逆流感が残存することがあり

そうした場合には
消化管運動賦活薬などを併用すると
効果があることがあります

食後でなく 食前15~30分前の服用が最も効果的です

噴門の逆流を防ぎ 
食道の蠕動運動を増強することで
食道粘膜の逆流胃酸による傷害を防ぎます

消化管運動賦活薬の説明図

症状改善のために使われますが 
あくまで補助的な役割で
単独の有用性のエビデンスはありません

前述したように
特に非びらん性のPPI抵抗例に投与すると
PPIとの併用で効果が得られることがあります
高橋医院