動き始めた日本の禁煙対策
日本の社会は喫煙者に甘い という批判を受けて ようやく日本でも 喫煙を抑制しようという さまざまな動きが起こってきています <学会の対応> 日本呼吸器学会 日本循環器学会 日本癌学会 などは 喫煙と健康に関する 一般の方への啓蒙用パンフレットを出していますし 医療関係者への禁煙治療のプロパガンダも 積極的に行っています <国の対応> 厚生労働省は 「健康日本21」という 生活習慣病の発症予防 重症化予防を行う政策や 「禁煙支援マニュアル」という 喫煙と健康に関する健康教育用テキストを発行し 喫煙を 生活習慣病の重大な危険因子と見做し 2022年度の成人喫煙率12%という 数値目標を設定しました 特に最近は ニュースなどで度々報道されているように 都や国が争うように 受動喫煙対策の法規制の強化を行い 街中での喫煙できる場所を 厳格に絞り込んでいく動きが盛んです <5つのもったいない運動> 禁煙支援マニュアルでは 5つのもったいない という興味深い指導も行っています @日常生活での 喫煙による5つのもったいない は *喫煙により 時間が奪われる *老けて見える *タバコ代がかかる *病気になって医療費がかかる *受動喫煙で家族も道連れにする @仕事場での 喫煙による5つのもったいない は *知らぬ間にお客様に嫌がられている *仕事をさぼっているようにみられる *病気で休みがちになる *ストレスがさらに増える *火事の原因にもなる このようにして 禁煙を誘導しようという試みは 面白いです <日本学術会議の提言> 禁煙に関する社会への呼びかけとして 日本学術会議は2008年3月に 下記のような提言をしています 少し長くなりますが 要点を抜粋します @タバコの直接的・間接的健康障害につき なお一層の教育・啓発を行う わが国ではいまだ 喫煙は趣味・嗜好の問題である という意見が根強いが 喫煙はニコチン依存症であると 認識するべきである すなわち 喫煙者は ニコチン依存を伴う喫煙関連疾患保有者であり そのような疾患の予防と進行を防ぐための 禁煙の重要性につき なお一層の教育・啓発が必要である 本人のみの努力による長期禁煙成功率は 5%程度にすぎず 専門的治療をうけても 長期禁煙成功率は30~40%程度である その意味でも タバコをやめたくてもやめられない 60%以上の喫煙者にとって 喫煙を単なる趣味・嗜好の問題とみなすことは 正しくない タバコ規制先進国では タバコの広告を全面的に禁止する一方で 政府予算によりテレビなどのメディアを通して 喫煙防止・禁煙支援のキャンペーンが 大々的に行われている 学校などでの喫煙防止教育は 喫煙防止のキャンペーンやタバコ価格の値上げ 公共の場所の禁煙などの対策とあいまって 初めて効果が上がる 喫煙はニコチン依存症であるとの観点からの 禁煙支援のキャンペーンを繰り返し行うことにより 喫煙者は禁煙に動機づけられ 禁煙を試みる者が増加するであろう @喫煙率削減の数値目標を設定する 「健康日本21」がモデルとした 米国のHealthy People 2010 においては 成人喫煙率(目標:12%) 喫煙開始年齢(同14 歳) 未成年者の月1回以上喫煙率(同16%) 過去1 年間に1 日以上禁煙したものの割合(同75%) 屋内喫煙禁止の職場(同100%) など詳細な数値目標を設定し モニタリングを行っている 日本も 喫煙率削減の数値目標を打ち出し 国民に対して政府のタバコ規制に関する 明確な意思表示を行うべきである @職場・公共の場所での喫煙を禁止する 職場 レストランやバーを含む 公共の場における屋内と タクシーを含む公共交通機関での 全面禁煙を明示し 罰則のある強制力を伴う法を整備する必要がある @未成年者喫煙禁止法を遵守し 次世代の国民を守る 小学校低学年から 受動喫煙を含むタバコによる健康障害と その予防に関する教育を行う 教師の喫煙率の低減を含めた喫煙防止教育のなお一層の推進を 学校現場に求める 大学を含めた全ての教育機関の 敷地内禁煙の早期実現をはかる タバコ産業は 一種の宣伝活動ともいえる 未成年者喫煙防止キャンペーンを中止すべきである @タバコ自動販売機の設置を禁止し タバコ箱の警告文を簡潔かつ目立つようにする わが国では タバコの自動販売機が56 万台以上設置され 誰でもどこでもタバコを買える 欧米で タバコ自動販売機の街頭設置が認められているのは ドイツのみであり わが国の現状が国際的には異常であることを 認識するべきである タバコ箱の警告文は 現在のような 吸いすぎなければ大丈夫 という誤ったメッセージを含むものでなく 写真入りで大きく読みやすく簡潔な表現による 実効性の高い警告表示にするべきである @タバコ税を大幅に引き上げ 税収を確保したまま タバコ消費量の減少をはかる 日本政府は これまでタバコ税の引き上げについて タバコ消費を減少させるための観点から その必要性を議論することには消極的であった このような政府のタバコ価格への取り組みのあり方は 早急に改める必要があり 現実的な第一段階として 現在のタバコ税を2倍に引き上げることを検討するべきである タバコ栽培農家の転作や タバコ小売業者の転業補助への 経済的措置を講じる政策を考慮することも 脱タバコ社会の実現に向けた施策を進めるために望まれる @タバコの直接的・間接的被害より国民を守る立場から タバコに関する規制を行う タバコによる健康障害が明らかにされた以上 喫煙はニコチン依存症である との認識に立ち その予防を含めて タバコの直接的・間接的被害より国民を守る という立場から タバコに関する規制が行われるべきである とても厳しい内容の提案ですが 上述したように これらの提案のいくつかは 既に実行されつつあります 要するに 喫煙は病気であり その健康被害から 子供たちの世代を守るためにも 社会全体で しっかりとした禁煙対策を行っていきましょう ということで ひとりひとりが そうした認識を持って下さい ということでもあるでしょう 愛煙家さんにはお気の毒ですが とても厳しい時代になってきています
高橋医院