今日は普段はお休みの日曜日ですが
”勢い”で 
左利きのお話を続けることにします(笑)


コニャック アルマニャック蒸留の話をしたら

左利きとしては
やはり樽熟成のことも 
話さないわけにはいけませんね!


お酒は 醸造酒 蒸留酒 に大別されます

ブドウや麦やお米から 
発酵によりアルコールができたものが
ワイン ビール 日本酒 などの醸造酒

醸造酒 蒸留酒についてまとめた図

その醸造酒を原料にして
前回ご紹介した蒸留により 
アルコール度数を高めたものが
ブランデー ウイスキー 焼酎 などの蒸留酒

日本酒を蒸留したら 焼酎
ワインを蒸留したら ブランデー
ビールを蒸留したら ウイスキー

が出来上がるわけです

そして 
ブランデー ウイスキーなどに欠かせないのが
樽を用いた長期間にわたる熟成です


<樽熟成とは>

蒸留したての無色透明の原酒(ニューポット)

原酒(ニューポット)ができているところの写真

樽に貯蔵して 何年も熟成させることです

樽のなかでは
ニューポット色が琥珀色に変化していき
深い香りと味わいが培われ 
味がなめらかになります

ニューポット色が琥珀色に変化していく様子

樽熟成により 
ウイスキー ブランデーの個性が育てられるのです

蒸留酒の出来栄えは
ニューポットの製造が4割 樽熟成が6割 を規定する
とまで言われています

ただし ニューポットに厚み 深みがないと
熟成による効果は得られないことを 
忘れてはいけません

樽熟成は 酒造りのプロの間でも 
神の領域 と言われていて
起きている現象については 
不明な点が多いそうです

ちなみに 樽熟成の歴史は 
ワインの瓶熟成から始まりました

18世紀頃の
イングランドを挟んだフランスとスコットランドの良い関係により
フランスで育ったワインの熟成の知識が
スコットランドでのウイスキーの熟成に応用できたのです

イングランドとスコットランドの仲の悪さ
それにともなう スコットランドとフランスの仲の良さが
ウイスキーを樽熟成させる文化の形成に貢献したのです

歴史は面白いですね(笑)


<熟成期間>

最低3年以上で
最近は 20~40年もの長期間にも及びます

熟成庫に並ぶ樽の写真

熟成期間により 
味わいや香味はしっかりと変化します

とあるシングルモルトウイスキーを 
熟成期間別に飲み比べてみると

12年では 
 華やかな香りが力強い 溌剌としているが
 刺激感もある

17年では 
 香りに奥行きが出て立体的
 香りの構造が渾然一体

30年になると 
 一体感とバランスは素晴らしいが
 香りが弱く 穏やかすぎて物足りない

と 評価されたそうです

年代物のウイスキーのボトルの写真

一般に 熟成期間が長いほど価格が上昇し
30年モノはかなり高価だったりしますが

書き手は 
30年モノのウイスキーは高価なのにスムーズ過ぎて
コストパフォーマンスが悪いと思っています(笑)


<熟成に影響する因子>

まず 蒸留所がある風土の影響が大きい

海と山では全く異なり

海は潮の香り
山は澄んだ空気 花のエレガントな香り
がします

海は 潮の香りがする荒々しいラフロイグ
山は 落ち着いた品のある香りのマッカラン

を思い浮かべると イメージできますね

ラフロイグ醸造所の写真
マッカラン醸造所の写真

気温が高くなく 湿度が高く 清澄な環境で

めりはりのきいた四季の変化

1日のうちでの適度な温度 湿度の変化

なども 重要なポイントになります


熟成庫内で 樽が置かれた場所も 
侮れないポイントです

樽のなかのお酒は 
外気と交流しながら熟成しますから
外気に触れやすい入口付近と 
触れにくい奥では 
微妙に風味が異なります

積み上げられた段数 高さも影響します

地面に近い位置と高い位置では
湿度や風通しが異なるため 
風味の異なる酒ができあがるのです

積み上げられた樽の写真


<樽のなかで起こっていること>

樽とニューポットの相互作用により 
複数の化学反応が並行して起こり
長い時間をかけて 
ニューポットの成分が変化します

そういう意味で 樽は単なる貯蔵器でなく
熟成に関与する反応器(リアクター)である
と言えます

反応を起こさせる大きな要因は

*日々の温度 湿度の変化
*四季折々の気候の変化

などです

樽からは 
木材に含まれている成分が溶け出します

タンニン 芳香性化合物などのポリフェノール 
有機酸 ミネラルなど

木材から溶出する成分がニューポットと反応して
透明な原酒に色がついていくのです


また 
年に2~4%のお酒が蒸発して消失します

これは天使の分け前”と呼ばれますが
これにより品質が良くなります

ニューポットは 樽材を通して空気と接触します

熟成庫内の酸素との接触により
ゆっくりと酸化が進み 香りの変化が出てきます

酸化でできた成分と
アルコールがエステル化して出来た新たな物質が
香味の生成につながります

一般的に 
酸化は食物などの味や風味を損ねますが

樽のなかでは
タンニンが過酸化物の発生を抑制できるので
香味形成などの酸化の良い面が現れるのが特徴です

熟成樽のなかで起きている変化についてまとめた図

樽熟成が醸し出す効果のなかで 
なにより重要なのが 香味の生成 です

ニューポットのアルコールや脂肪酸が化学反応を起こし
脂肪酸エステルなどの甘く華やかな
香気成分が出来てきます

樽熟成で醸し出される香りは

*オーク 甘い穀物の香り
*バニラ
*ココア チョコレート
*果実香 イチゴ パッションフルーツ レーズン
*スパイシー
*スモーキー

など 多彩です

樽からウイスキーを採取して香りをかぐ人の姿

このようにして
ニューポットのごつごつした角が削り取られ
まろやかな味わい 豊かで多彩な香味を有する
ブランデーやウイスキーが熟成されます


高橋医院