本庶先生 おめでとうございます!
2018年度の ノーベル医学・生理学賞の受賞者が発表され 本庶佑先生が 受賞されました! おめでとうございます! 本庶先生のご専門は免疫学で 書き手も日本免疫学会の会員ですので 先生の数々の輝かしい業績は よく存じあげています 最初の頃は 抗体の遺伝子のクラススイッチ を研究されていて 膨大な数の細菌やウイルスを認識する抗体の遺伝子が どのようにして構成されるかを 明らかにされました T細胞受容体の遺伝子の研究をされて 1986年に日本で初めて ノーベル医学・生理学賞を受賞された 利根川進先生のライバルと 目されていたこともあります 今回 本庶先生は アメリカのアリソン先生と 共同受賞されましたが 評価されたのは 「免疫抑制分子を応用したがん免疫療法」 に関する研究です 少し長くなりますが 詳しく解説します ウイルスやがん細胞を攻撃するT細胞(下図右のCD4)は マクロファージなどの抗原提示細胞(下図左のDC)の MHCⅡ分子が提示するウイルスやがん細胞の抗原を それに特異的なT細胞受容体(TCR)が認識して(下図の真ん中の部分) それらを特異的にやっつけることができるようになります 抗原提示細胞には T細胞を活性化する分子 抑制する分子 が存在して T細胞上に発現している それら分子の受容体と結合することで MHC分子とT細胞受容体により誘導される反応を 活性化したり抑制したりします これらは 補助刺激分子 co-stimulatory molecule と呼ばれています 下図には 多くの種類の活性化分子 抑制分子が並んでいますが 今回の主役の免疫抑制反応を司る代表格が 抗原提示細胞に発現するリガンドCD80 CD86と T細胞上に発現する受容体CTLA-4 抗原提示細胞に発現するリガンドPD-L1 PD-L2と T細胞上に発現する受容体PD-1 の組合せです そしてCTLA-4の基礎研究を行う過程で がん治療への応用を 最初に開始したのがアリソン先生 PD-1を発見し 紆余曲折を経て がん治療への応用をされたのが本庶先生で 今回の同時受賞になりました で なぜ免疫抑制分子が がん治療に応用されたかというと がん細胞は いくつかの免疫抑制分子のリガンドを発現していて 自らを攻撃しようとするT細胞の 抑制性受容体に結合して T細胞を働かなくさせて攻撃を逃れて 生き延びてしまうのです(下図A) そこでT細胞の抑制性受容体を 特異的な抗体でブロックすれば がん細胞からの抑制が働かなくなり T細胞ががん細胞を 退治することができる(下図B) というメカニズムです ちなみに がん細胞は PD-1のリガンドは発現していますが CTLA-4のリガンドは発現していません (下図のいちばん下の赤い細胞をご覧ください) ですから 抗PD-1抗体の方が抗CTLA-4抗体より より大きな抗がん作用を発揮します 本庶先生が開発されたオプジーボという薬は ここ数年で さまざまな種類のがん治療に用いられ 良好な治療効果が得られています まさに がん治療の新たなステージを 切り開いたというわけです でも 本庶先生の凄いところは 最初からがんを念頭にPD-1の研究を されていたのではないことです 1994年 T細胞に発現する 得体の知れない分子PD-1を同定され やがてそれが 免疫抑制性の補助分子であることがわかり 2000年代になって がん免疫の研究に応用されるようになり 2014年にオプジーボが開発されたのです 地道なコツコツとした基礎研究が 花開いたのです 本庶先生は 数年前からノーベル賞候補と目されていましたが 受賞の電話を受け取られて その場に居合わせたラボメンバーと 喜びを分かち合われたそうです さすがに 嬉しそうな表情をされていますね 書き手は以前から 本庶先生は格好良い! と思っていました 印象に残っているのが もう10年以上前のことですが 書き手も参加していた免疫の国際シンポジウムで 日本の某免疫の大家の先生の講演で 大変たくさんのデータを次々に出され 息も絶え絶えに熱弁されたとき 質疑応答で 本庶先生がさっと立たれて 静かに しかし重々しく Is this a cause or result? それは結果なの原因なの? と問われたのです 演者は一瞬 答えに窮されていましたが あの質問はポイントを突いていたし 迫力があって格好良かった! 身近で聞いていて 思わず鳥肌が立ちましたよ 受賞を祝うNHKのインタビューで 「何ができるかに走ると 面白くなくなるし 変な方向に行きかねない 自分が何を知りたいかを 追求することが大事だ」 と語られていましたが それを聞いて あのシンポジウムでの質問を思いだしました 再度 本庶先生 おめでとうございます!
高橋医院