酵素は
どのようにして触媒反応を行っているのでしょう?

実はその詳細はいまだ明らかにされていませんが
以下に示す機序が考えられています


<酵素は活性化エネルギーを下げ 反応を容易にする>

一般に化学反応は
下記のようなプロセスを経て進行します

@活性化エネルギー

*反応物質に化学反応が起こるには
 エネルギーの高い山を超える必要があります

*反応物質が
 この山を超えられるだけのエネルギーを有していないと
 化学反応は完遂できません

*山を超えるのに必要なエネルギーを
 「活性化エネルギー」と呼びます


@活性化状態

*化学反応が起こると
 反応物質のなかで
 原子の組み換えが連続的に起こります

*活性化エネルギーが最大になると
 化学反応が最盛期になります

*このエネルギーの山で活発に反応が起きている状態が
 「活性化状態」です

@反応熱

*反応が生じると多量の熱が放出され 
 最終的に反応物質よりエネルギー状態が低い
 生成物質が出来ます

*放出された熱・エネルギーは「反応熱」と呼ばれます

*反応熱により
 反応物質の分子が加熱され活性化されるので
 それ以降も反応が
 連鎖的かつ爆発的に進んでいくことができます

ezm41

では 酵素が加わると
化学反応はどのように変化するのでしょう?

@酵素の働きにより 活性化エネルギーを抑えられる

*酵素の触媒作用により
 活性化エネルギーを低くすることができるので
 化学反応が迅速に進行すると考えられています

ezm41a

*しかし
 活性化エネルギーを低くする詳細な機序はわかっていません


<酵素と基質が結合する機序>

@鍵と鍵穴

*基質の形状と 酵素の基質結合部位の形状が
 3次元構造的に「鍵と鍵穴(立体構造上のくぼみ)」
 の関係にあり

 酵素の基質結合部位に存在するくぼみ(鍵穴)に
 うまく結合できる構造の基質(鍵)だけを
 酵素の作用が発揮される活性中心へ導くことで
 酵素作用が発現される

 と考えられています

ezm32

*基質と酵素の活性中心は
 水素結合 イオン結合といった反応により結合します


<酵素と基質の結合により起きる立体的な変化>

@エントロピー・トラップ

*酵素の機能部位である活性中心では
 基質が酵素に結合する部位(結合部位)と
 酵素が触媒作用を発揮する部位(触媒部位)は
 別々に存在します

*基質は結合部位に結合すると自由が奪われ
 活性中心の触媒部位に正面から向かわされます

*この作用により 反応全体のエントロピーが減少し
 活性化エネルギーを下げることができます

ezm42

@基質を触媒部位に適切に向かわせることで
 基質の有効濃度を高める効果もあります

@誘導適合

*基質の結合により 酵素の立体構造が変化し
 触媒部位が適切な位置に配置され
 結合した基質とうまく向いあえるので
 反応が起こりやすくなります

@基質分子の立体構造をひずませる

*結合により
 基質分子が圧迫されたりねじられたりして
 切れやすくなるため
 触媒反応が起こりやすくなります

こうしたさまざまな構造上の立体的変化により
酵素の触媒作用が円滑に効率的に進行すると
考えられています


一方 酵素反応は
過剰に行われないように調節されています


<酵素反応の調節機構>

@フィードバック制御

*代謝反応で生じた生産物が過剰になると
 その代謝反応を触媒している酵素の活性に
 フィードバック阻害がかかるので
 過剰な生産は制御されます

*反応の最終産物の代謝生産物が酵素の阻害剤となり
 フィードバックをかけることがよくあります


ezm43


@アロステリック制御

*フィードバック調節のひとつで
 酵素機能が他の化合物(エフェクター)によって
 調節されることです

*エフェクターは
 酵素が関わる代謝の生産物のこともあり
 代謝反応とは全く関係ない物質のこともあります

*エフェクターは 酵素の基質とは構造が大きく異なり
 酵素の基質結合部位とは異なる
 調節部位(アロステリック部位)に結合すると
 考えられています

ezm44

*この結合により 酵素の立体構造が変化し
 基質結合部位の構造も変化すると
 酵素の触媒活性や複合体形成反応が
 正または負に制御されます

ezm45

*酵素の活性を
 促進するエフェクターは
 アロステリック・アクティベーター
 
 抑制するエフェクターは
 アロステリック・インヒビター
 
 と呼ばれます

*アロステリック制御を受ける酵素の多くは
 複数のサブユニットの会合体の構造をしていて
 活性中心とアロステリック部位が
 別々のサブユニットに存在していることもあります

酵素そのものも さまざまな機序により
活性化されたり失活したりします


<酵素の活性化>

@酵素の前駆体の切断

不活性な前駆タンパク質としてつくられ
ペプチド鎖の一部が切られて
活性型酵素に変化するものがあります

ezm46

*ペプシノーゲン → ペプシン
*トリプシノーゲン → トリプシン
*キモトリプシノーゲン → キモトリプシン
*プロエラスターゼ → エラスターゼ
*プロトロンビン → トロンビン

など

@リン酸化 脱リン酸化

*酵素のタンパク質構造に
 セリン トレオニン チロシン残基がある場合
 そのOH基はリン酸化されることがあります

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*リン酸化により酵素が活性化することがあり
 その場合は脱リン酸化が起こると酵素活性は失われます

*逆にリン酸化により
 酵素が不活化されることもあります

*リン酸化・脱リン酸化は
 生体内で幅広く行われている重要な反応なのです

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@こうした
 ペプチド鎖の切断 リン酸化・脱リン酸化といった
 酵素活性の制御も
 全て酵素反応により行われます


<酵素活性の失活>

@立体構造の変化

酵素が活性を失う原因には
その立体構造の変化が深く関与しています

@原因

*失活の原因として
 熱 pH 塩濃度 溶媒 他の酵素による作用
 などが知られています

*これらの条件が大きく変わると
 酵素の立体構造が不可逆的に変わり
 酵素は失活してしまうのです

ezm49

今日のお話は
基礎的な内容で難しかったかもしれませんが

*なぜ酵素の触媒作用により
 化学反応がスムーズに進むか

*酵素反応は制御されている

*酵素活性も制御されている

といったイメージを
少しでも持っていただけたら幸いです

このあたりは
医学生の頃に生化学で 必死に でも面白く勉強したので
とても懐かしいです

アロステリック制御のことを知って興奮したのを
思い出しました(笑)
高橋医院