目標は A1c 6.2!
当院には糖尿病の患者さんが たくさん受診されており 基本となる食事療法 運動療法に加えて 飲み薬やインスリンの治療を受けておられる方も 多くおられます 治療効果は人それぞれですが 糖尿病のコントロールの指標として 採血時から2~3か月間前の血糖の動態を表す HbA1cという血液検査項目が用いられ その値の変化に 患者さんも医者も一喜一憂します(笑) 「あれっ 今回は前回よりA1cが上がっちゃいましたね?」 「あ やっぱりそうでしたか 油断して食べ過ぎて 体重が増えちゃったのですよ」 「おや 今回はA1cが良いですね!」 「頑張って1日1万歩 歩いたのですよ」 「よかった! 努力の成果が数字に出ましたね!」 こうした悲喜こもごものやりとりが 診察室で交わされますが HbA1cを どれくらいにコントロールすべきなのでしょう? 基準値上限は 6.2(%)ですが 糖尿病の患者さんで そこまで改善するのは なかなか難しい 日本糖尿病学会の治療ガイドによると コントロール目標値は *合併症予防のためには 7.0未満 *血糖正常化を目指す際は 6.0未満 とされています ですから HbA1cが6%代になっていれば まあ良いでしょう ということになりますが そんな甘いことではダメだ! もっと厳しくしないと! という趣旨の臨床研究論文が 一昨日 Lancet diabetes endocrinology という 世界的に有名な権威ある医学誌の オンライン版で発表されました この臨床研究を行ったのは 東大の門脇先生をまとめ役とした 日本全国の81施設の医師・研究者からなる グループです 治療を行っている糖尿病患者さんが 心筋梗塞 脳梗塞などの 合併症を起こさないようにするためには 治療中の血糖値 血圧 脂質の管理目標値を どのくらいに設定すべきか? この疑問点を明らかにする目的で 全国81施設の2542人 (男女比 6:4 年齢45~69歳)の患者さんを *現行指針通りのコントロール目標値になるように 治療した 従来群 (HbA1c<6.9% 血圧<130/80mmHg LDL<120mg/dl) *より厳しいコントロール目標値まで改善するように 治療した 強化群 (HbA1c<6.2% 血圧<120/75mmHg LDL<80mg/dl) に分け(1271人ずつ) 2006年以降 平均8.5年間 経過観察を続けて 心筋梗塞や脳卒中などの合併症が起きる割合を 比較しました ちなみに 従来群と強化群の 治療の違いですが 強化群では *インスリン抵抗性改善薬のピオグリタゾン または インスリン *血圧降下剤のアンギオテンシン受容体拮抗薬 *LDL降下作用が強力なタイプのスタチン製剤 が それぞれ より高頻度に投与されていました で 結果ですが 両群とも 治療により HbA1c 血圧 LDLは いずれも低下しましたが 改善の程度は 強化群(赤)の方が 従来群(青)より著明でした 糖尿病専門医さんによると この折れ線グラフの左端の 最初の下がり具合が大切で 初期治療で しっかりとHbA1c値を改善させることが 心血管系合併症の予防に 重要なポイントだそうです さて 心筋梗塞 脳卒中などの合併症の発症率を見ると 時間経過とともに増えてきますが 赤の強化群の方が 青の従来群よりも 低い傾向を認めます さらに 合併症の種類別に検討すると 心筋梗塞 狭心症などの 心血管系合併症の発症率は 赤の強化群の方が 青の従来群よりも 低い傾向を認めます また 脳梗塞 脳出血などの 脳血管系合併症の発症率は 赤の強化群の方が 青の従来群よりも 統計学的に有意に低いことが示されました さらに 糖尿病の重大な合併症である 糖尿病性腎症 網膜症の発症率も 強化群では従来群より低く 腎症については 統計学的に有意な差があることが示されました このように 治療目標値をより厳しく設定して 的確な治療を行うことで 重篤な合併症の発症を予防できることが 明らかにされたのです 糖尿病専門医さんの解説によりますと 治療目標値を厳しく設定することの効果は 過去に欧米からも報告されていましたが 今回の日本からの発表は 糖尿病や脂質異常症の新たな治療薬の効果も 反映されているので 業界ではインパクトが強く 2019年に改訂予定の 日本糖尿病学会の治療ガイドに この厳しさが反映されるのではと 推測されているようです *HbA1cは 6.9 でなく 6.2 *LDLコレステロールは 120 でなく 80 *血圧は 130/80 でなく 120/75 実は書き手は 糖尿病の患者さんのHbA1cが7%を下回ると たとえ6%の後半でも 患者さんと一緒に喜んでいましたが これからは 6.2まで下がらないと 患者さんに笑顔を見せないようにします! 糖尿病の患者さん ご覚悟ください?(笑) HbA1c 6.2 を目指して 一緒に頑張りましょう!
高橋医院