なぜ 眠くなるか
ヒトはなぜ 夜になると眠くなるのでしょう? そんな理由 考えたこと ありませんよね?(笑) 眠くなる現象には *体内時計 *恒常性維持機構(ホメオスタシス) のふたつのメカニズムが 関与していると考えられています <体内時計> ちょうど 今年のノーベル賞の”お題”となった サーカディアンリズム 既に説明しましたが 簡単に復習すると 体内に 昼間は覚醒して 夜になると睡眠をとる という日内リズムが存在し ヒトはそのリズムにしたがって 24時間周期で睡眠と覚醒を繰り返します ここで重要な働きをするのが 睡眠をうながすメラトニンで 朝 太陽の光を浴びると メラトニン分泌が減少して 覚醒しますが 夕方になると メラトニン分泌が増え 眠たくなってくる だから 夜の決まった時間 起床後14~16時間たつと眠くなる <恒常性維持機構> もうひとつのメカニズムの恒常性維持機構は 睡眠負債 という呼び方もされます 負債? なんだそりゃ? と思われるでしょうが 思い切り簡単に言うと 疲れたから眠くなる ということです 昼間 ずっと覚醒して仕事をしていると 脳が疲れて 睡眠物質という眠気を誘う物質が溜まってくる そうすると 脳を休ませるために ヒトは眠たくなり睡眠をとる この 体内時計と睡眠負債のふたつの因子により ヒトは眠くなります 睡眠負債 睡眠物質 というコンセプトは 馴染みがないでしょうから もう少し詳しく説明します <睡眠負債 睡眠物質> 要するに 覚醒が長時間続くと 蓄積疲労により眠くなる ということですが 蓄積疲労の本態を 睡眠物質という新たな概念に求めたのは 次のような動物実験の結果に依っています 長時間眠らないで覚醒させていた犬の 脳の周囲から採取した液を 他の犬の脳の周囲に注射したら その犬は寝てしまったのです! 注射された犬が寝るのを見たとき 研究者は興奮したことでしょうね! その後 睡眠物質の候補が いくつか同定されてきました 代表的なのが プロスタグランジンD2・アデノシン系です プロスタグランジンD2は 脳を包むクモ膜で作られ 前脳基底核に働きかけて アデノシンを放出させる (下図の左側・前脳基底部) アデノシンは 視床下部の睡眠中枢に働きかけ 視索前野・VLPOに存在する GABA作動性ニューロンを刺激して (下図の中央・視索前野) 分泌されたGABAが 覚醒中枢から大脳皮質に放射され 皮質を覚醒する ヒスタミン系 モノアミン系 アセチルコリン系の働きを 抑制する (下図の右側・後部視床下部) その結果 覚醒状態が抑制され 眠くなるという筋書きです ちなみに *カフェインは アデノシンの受容体結合を邪魔するので 覚醒作用があり *アルコールは GABAと同様の働きをするので 飲むと眠くなります アデノシンは 覚醒中にさまざまな細胞で作られる エネルギー分子ATPが 分解されて出来ますが 覚醒時間が長ければ長いほど 脳内濃度が高まっていき 逆に睡眠中には 次第に減少していきます このように 睡眠物質の蓄積による睡眠負債により 眠気が誘導される という説は なかなか説得力があるように感じますが 最近は 睡眠物質説に疑問が投げかけられています <新しい仮説> というのも 最新の研究により 睡眠時に 脳は均一に休んでいるわけではなく 昼間の覚醒時に酷使された局所が 選択的に より深く休むことがわかりましたが (この現象を ローカル・スリープと呼びます) 脳全体に及ぶ睡眠物質の蓄積説では この現象が説明できない ということで 睡眠負債・恒常性維持機構の実態は 単に睡眠物質の蓄積という 受動的な現象ではなく *日中の活動で 余分に増殖した神経シナプス *脳の機能を低下させてしまう 代謝老廃物 などのメインテナンス 不要なものの除去 などを目的とした もっと能動的で 合目的的な活動ではないか? と考えられつつあるようです このあたりについては 稿を改めて解説します
高橋医院