ミスマッチ病
ミスマッチ病の話を続けます
ヒトの身体は
食物が少なく
そのため走り回って食物を探すという
現在とは異なる環境で
飢餓に備えることができるように進化した
ために
現在の飽食な食事や運動不足の生活には
うまく適応できない
端的に言うと
肥満になってしまう
のです!
では
ご先祖様が成し遂げた進化を引き継いだ
私たちの身体は
どんな身体なのでしょう?
それは なんと
糖質などのエネルギーの高い食物を欲しがり
身体活動に必要なエネルギーでは
消費しきれない余分なカロリーを
効率よく脂肪として蓄積する身体
なのです!
いつ襲ってくるかもしれない
飢餓環境に対応するには
当然の進化なのですが
しかし
このような身体が
現代の飽食 運動不足な環境で生活すると
ブクブクと太ってしまい
糖尿病などの生活習慣病が蔓延している
言われてみれば
ごもっともです(苦笑)
こうした事実から
ミスマッチ病
というコンセプトが生まれてきます
狩猟民族は
定期的に食料不足に直面し
活発に身体を動かさないといけなかったから
エネルギー豊富な食物を切望し
休めるときには休もうとする
自然選択が働いて
今の身体が出来上がったので
ドーナツなどの
高カロリーで甘いものを食べたがり
休日には運動せず
家で寝転がっていたいのは
ヒトの原始的な衝動なのである
しかし それらは
かつては意義がある適応であったけれど
現代では
むしろデメリットになってしまっている
この150年あまりで
食生活を含めた生活環境は
大きく変化したけれど
身体の遺伝的 解剖学的 生理的な本質は
なんら変わっていない
そこに
現代人の不幸の原因があるのです
まさに 生活習慣病はミスマッチ病
というわけです
では どうしてヒトの身体は
新しい生活環境に適応して
進化していないのでしょう?
それは 近年の生活環境の変化が
あまりにも急速すぎたので
ヒトの身体に
環境の変化に対応するような自然選択が起こるには
全く時間が足りていないのです
ヒトの身体は
250万年の長い時間をかけて進化してきたけれど
飽食で運動不足のライフスタイルになってから
まだ100年も経っていない
つまり
私たちの祖先である
ホモサピエンスが登場して以降
重要な生物学的進化は
実のところ全く起こっていないのです
現代は
生活環境の変化といった文化的進化の方が
自然選択よりも強力な力となっているけれど
身体は
そうした劇的な環境変化に
対応できず変化できていない
なぜなら
自然選択は
何百世代も経過しないと
劇的な効果を表さないからです
なるほど
文化的環境の変化のスピードに
進化のスピードが
ついていけていないのですね
仮に 現代の生活環境に適応するような
身体の自然選択が始まっていても
それはまだ始まったばかりで
その成果が出るのは
何百万年も先のことになる
ということでしょうか?
こうした現状から
ディスエボリューション
というコンセプトが生まれてきます
ミスマッチ病の原因である
新たな生活環境を変化させるのは現実的に難しい
飽食で運動不足となる環境は
実は便利で有難いものだけに
それが病の原因になると解っていても
是正できず次世代に伝えてしまい
次世代も同じ病気に悩む
という悪循環が生じてしまう
先祖から受継いだ身体
新たに築かれた昔とは異なる生活環境
その便利な生活環境を選んでしまう判断
それらの相互作用により
危険なフィードバックループが
形成されてしまう状況を
ダニエル先生は
「ディスエボリューション」と呼びました
現代社会では
生物学的進化より 文化的進化の方が
はるかに大きな影響を与えている
文化的進化では
人間が作りだした新たな考えや行動を
子供や周囲の人々に伝達するが
そうした新しい行動である
過度に豊富な食物環境と身体活動の少なさが
体の具合を悪くさせている
でも 身体はそうした状況に
対応して進化できていない
それは
生物学的進化より
文化的進化の方が
はるかにスピードが速いから
まさに
ディスエボリューションが生み出す
ミスマッチ病の世界
でも 進化を促す原動力が
子孫を増やすことなら
現代社会でミスマッチ病が蔓延していても
子孫は増やせているわけだから
身体が進化する必要はないのでは?
天邪鬼な書き手は
そんなふうにも思えるのですが
どうなのでしょう?(笑)
高橋医院