体内因子により慢性炎症が生じる機序
慢性炎症は 飽和脂肪酸 終末糖酸化物・AGEといった 体内の因子により生じることを 前回紹介しましたが どうして病原体ではない 単なる体内の因子が 炎症を起こしてしまうのでしょう? それは 体内の細胞が 飽和脂肪酸やAGEを感知して 炎症を起こすシステムがあるからです <病原体センサー・PRRの発見> @自然免疫 免疫学の世界では1990年代に入り 「自然免疫」が注目を浴び始めました 自然免疫とは 免疫細胞が細菌やウイルスなどの病原体を 感知するシステムです そして 自然免疫系の免疫細胞に パターン認識レセプター(PRR)という 病原体が発現しているパターン(PAMP) を認識する病原体センサーが 発現していることが明らかにされました パターン認識レセプター(PRR)には さまざまな種類があります @TLR 代表的なのがTLRで TLR1~TLR10の10種類があり 細菌やウイルスの 構成成分を認識します TLRは 細胞の表面(細胞膜)に発現して 病原体のタンパク質などを 認識するだけでなく 細胞の内部(細胞質)にも発現して 侵入してきた病原体の RNAやDNAも認識します @NLR NLRは細胞質に存在し 病原体の構成成分を認識します NOD1 2 NLRP1~3 などがあります @CLR CLRは細胞膜に存在し 真菌壁の構成成分を認識します Dectin1 2 Mincle などがあります @RLR RLRは細胞質に存在し ウイルスRNAを認識します RIG1 MDA5 などがあります @cGAS cGASは細胞質に存在し 二本鎖DNAを認識します これらの パターン認識レセプター(PRR)が 病原体を認識すると 細胞内にシグナルが入り NFkBなどの転写因子が活性化され 炎症性サイトカインなどが産生されて 炎症反応が起こるのです 免疫細胞が病原体を認識して 炎症が生じる機序がわかってきました <PRRは実質細胞にも発現している> さらに興味深いことが 明らかにされました PRRは 臓器を形成する実質細胞にも 発現していて 組織の実質細胞も 病原体を認識して炎症を起こすのです そして実質細胞が関与するからこそ 組織で炎症が慢性化することも 明らかにされました 慢性炎症に関与する 組織実質細胞としては *上皮細胞 *線維芽細胞 *血管内皮細胞 平滑筋細胞 *常在細菌叢 などがあります <PRRは身体の成分を認識する> そして遂に 病原体でない体内因子が 炎症を起こす機序が 明らかにされました 免疫細胞や実質細胞は PRRを介して 死細胞や傷害細胞由来の 内在性物質を認識して 活性化されるのです 最近は こうした損傷組織から放出されて PRRを活性化する内因性物質を Alarmin・アラーミン と呼ぶようです 具体的には TLR4は タンパク質や脂肪酸を 認識しますし NLRP3というPRRの仲間は 尿酸結晶 コレステロール結晶 アミロイドβ結晶 を認識します こうして PRRにより体内の因子を認識した 免疫細胞や実質細胞が 活性化されて炎症を起こすのです @内在性因子 PRRで認識される体内の因子は 炎症を起こしてしまう 危険な因子・Danger signal と呼ばれます なんらかの傷害を受けた細胞から 放出される因子なので Damage-associated molecular patterns(DAMP) とも呼ばれていました 但し 最近は 病原体由来の外因性因子を PAMP 損傷組織由来の内因性因子を アラーミン と呼び それらをまとめて DAMP と称するようです 損傷組織由来の内因性因子には *エネルギー分子のATP :NLRP3が認識 *自己核酸 :RAGEが認識 *細胞質で働くタンパク質のHSP :TLR2 TLR4が認識 *核内タンパクHMGB1 :TLR2 TLR4 RAGEが認識 *S100ファミリー A8/A9 :TLR4 RAGEが認識 *細胞外マトリックス分解産物 ヒアルロン酸など :TLR4が認識 *尿酸 コレステロール結晶 :NLRP3が認識 *遊離飽和脂肪酸 :TLR4が認識 *酸化LDL :TLR2が認識 などがあります このように 生体内に存在する *傷害を受けた細胞から放出される因子 *飽和脂肪酸 LDL 尿酸などの代謝性因子 が 免疫細胞や実質細胞のPRRを刺激して 炎症を起こさせることが 明らかにされました <自然炎症・非感染性炎症> このように PRRの内因性因子の認識によって起こる炎症を 自然炎症と呼びます 非感染性炎症 とも呼ばれます つまり 病原体がなくても 体内の細胞から放出された因子により 炎症が起こるのです 飽和脂肪酸 コレステロールなどは 悪い食生活で体内で増えて 自然炎症を惹起し しかも少量ながら常に存在するので 炎症が遷延して 非感染性の慢性炎症が生じてしまい それにより 非感染性の慢性炎症疾患である 生活習慣病が起こる 慢性炎症と生活習慣病のリンクが 明らかになってきました
高橋医院