COPDがなぜ起こるか?

現場の肺では
どのようなことが起こっているか解説します

<病因>

@タバコ

主たる原因物質は タバコの煙で
患者さんは 
長期の喫煙歴がほぼ100%あります


COPDの患者さんは長期の喫煙歴がほぼ100%であることを説明するグラフ


タバコの煙が 肺の炎症を誘発するのです

喫煙者の20%が発症するとされています

Brinkman Indexという
喫煙の経時的な影響を示す指標があり
1日当たりの本数X喫煙年数で示されます

1日20本を20歳~35歳まで
1日10本を35歳~55歳まで吸っていたら
Brinkman Indexは
20X15 + 10X20 = 500 となります

Brinkman Indexの説明図

400以上だと
COPDの発症率は20%とされ
患者さんは600以上の人が多いようです

400以上で
肺がんリスクが上がるとされています

@炎症細胞

肺に集積する炎症細胞は
ケモカイン サイトカインなどの
炎症性メデイエーターや
プロテアーゼ 活性酸素を産生します

また TGFβ EGFなどを産生し
組織リモデリング 発がんに関与します

@プロテアーゼ・アンチプロテアーゼのバランスが崩れる

COPDでのプロテアーゼ・アンチプロテアーゼのバランスの崩れを説明する図


通常の状態では
タンパク質を分解するプロテアーゼと
プロテアーゼを抑制するアンチプロテアーゼの
バランスがとれていますが

COPDの病態ではプロテアーゼが優勢になり
好中球エラスターゼ
カテプシン
MMP
プロテアーゼ3
などの過剰な働きにより
肺胞壁を構成するエラスチンが破壊されます

α1アンチトリプシン
SLPI
TIMPs
などのアンチプロテアーゼは減少しており
これを補う治療法が考えられています

COPDの病態を説明する図


@酸化 抗酸化のバランスが崩れる

COPDの患者さんでは
血中 肺における
酸化ストレスのバイオマーカーが増加していて
酸化ストレスが亢進した病態と考えられています

酸化ストレスの原因となるオキシダントは
タバコ煙などに大量に含まれており
活性化された炎症細胞からも産生されます

逆に 抗酸化因子は欠乏しています

酸化ストレスの亢進により
炎症遺伝子の活性化
アンチプロテアーゼの不活化
粘液分泌 血管透過性の亢進
などが起こり
COPDの病態を悪化させます

@アポトーシス オートファジーの異常

アポトーシス

肺胞上皮細胞 血管内皮細胞が
アポトーシスを生じていて
酸化ストレスによるアポトーシスの助長が
関与している可能性があります

オートファジー

肺胞マクロファージで
オートファジーが正常に機能していないため
生理的なタンパク質分解が不十分で
細胞老化が進むと考えられています

@肺の発育障害

幼少期の持続的な炎症 傷害が
成人期の肺の発育障害の原因となり
発育障害が
COPD発症の危険性を増加させると
推定されています


@なぜ炎症が慢性化するか?

COPDの患者さんでは
炎症反応が増強し 慢性化していて
これには遺伝的要因の関与が推定されています

また禁煙後も炎症は持続しますが
これには
エラスチンに対する自己免疫反応や
微生物の関与の可能性が
推定されています

<病態生理>

COPDの患者さんの肺では
下記のようなことが生じています

@気流閉塞と過膨張

気流閉塞と過膨張について説明する図

末梢気道壁の
慢性炎症とそれによる線維化により
末梢気道は狭窄し気流閉塞が起こります

さらに
肺胞接着の消失 肺の弾力性の低下により
肺胞に気腫性病変が生じ
そのために肺は過膨張状態になります

呼気時の気道抵抗の増加により
安静時でも肺の過膨張が生じて
残気量が増加します

炎症により
息を吐けなくなり
末梢に空気が溜まってきてしまうのです

こうした病態は
患者さんの症状や重症度を規定する因子となり
この軽減が重要な治療目標になります

気管支拡張薬は 過膨張を軽減します

COPDの気管支 肺胞の状態を説明した図

@ガス交換障害による低酸素血症

肺胞構造の破壊と気道狭窄により
換気不均等が生じて
酸素の取込みが上手くいかず 
低酸素血症になります

@気道の過分泌

さまざまな刺激による粘液の過分泌が起こり
慢性の痰 咳の原因になります

過分泌をもたらす刺激としては
EGFRの活性化 
Th2サイトカイン
などが関与すると推定されています

@肺高血圧 肺性心

気流閉塞 低酸素血症により
肺に血液を送りだす右心側に負荷がかかり
肺高血圧症から肺性心となる病態が
緩徐に進行していきます
高橋医院