ウイルスは生物か?
新型コロナウイルスの話題で 中断してしまいましたが 既に開始していた ウイルスに関する基礎的な解説を続けます <ウイルスの宿主> ウイルスが感染して その細胞内で増殖する生物を宿主と呼びますが 宿主は *細菌 *植物 *動物 の全てに及びます 地球上のありとあらゆる生物を宿主とし それだけ多様な種類のウイルスが存在すます ウイルスにより 宿主の種類は決まっていて 他の種の宿主に感染することはありません 宿主が限定される機序として 前回 ウイルスが細胞に吸着するところで解説した 「鍵と鍵穴」の関係があります ウイルスの細胞への侵入は *ウイルス表面上のタンパク質 *細胞上のレセプター の特異的結合により規定されますが ウイルス表面のタンパク質が結合するレセプターを 細胞表面に有する生物が ウイルスの宿主になるのです <バクテリオファージ> 細菌に感染するウイルスは 宇宙船のような非常にユニークで 吸着に使う足(尾繊維)を有していて バクテリオファージと呼ばれます バクテリオファージには 興味深い点がいくつかあります @ファージ治療 バクテリオファージの 特定の細菌に感染する性質を利用して 細菌に対する「ファージ治療」が試みられています 細菌感染の治療にファージを用いるもので 頻繁な使用により 薬剤耐性を引き起こす抗生物質に代わる 新たな細菌治療法として開発されました 特定の細菌だけ狙い撃ちできるので 抗生物質のように 善玉菌まで攻撃しない利点もあります 大腸菌 赤痢菌 緑膿菌 ブドウ球菌などの ヒトに有害な病原菌に対する治療が試みられていますが 現在のところ 芳しい成果は得られていません 但し最近は ゲノム編集を用いたファージ治療が 注目されています 薬剤耐性を引き起こす抗生物質耐性遺伝子を 破壊するように ゲノム編集で改変したバクテリオファージを用いるもので その成果が期待されています @腸内のバクテリオファージ 一方 腸内に存在する バクテリオファージが注目されています 腸内細菌については 度々説明しましたが 腸の中には 細菌だけでなく 腸内細菌の数十倍の量の バクテリオファージが存在するのです その種類は 健常者では共通した傾向があり 腸内細菌叢と同様に 潰瘍性大腸炎などの消化器の病気では バクテリオファージのパターンが 異なっています また 腸内のバクテリオファージが 腸内細菌に感染して殺すことで 腸内細菌叢のバランスの形成に関与し 間接的に健康維持に貢献している可能性があり とても注目されています <ウイルスの死> ウイルスは 熱 紫外線 オゾンなどにより カプシドのタンパク質が変性するため 不活化されます 感染力は 60℃で数秒 37℃で数分 20℃で数時間 4℃で数日 で 半減することが明らかにされています また 多くのウイルスは 細胞の外では 数時間で感染力が半減し 特にエンベロープウイルスの多くは 細胞外では数分で死滅します しかし ノンエンベロープウイルスは 細胞外でも長時間生存できます その代表例が ヒトに感染して下痢を引き起こすノロウイルスで 細胞外でも1ヵ月近く感染力を保つとされています <ウイルスは生物か?> これまで見てきたように ウイルスは 細胞の中と外で振る舞いが全く異なります 細胞の外では 単なる構造物であるウイルス粒子として存在し 感染した細胞の中では 細胞のシステムを利用して *遺伝子複製 *ウイルスの増殖 を行い あたかも生物のように振る舞います つまり ウイルスは細胞がないと増殖していけない そんなウイルスは 生物と言えるのか? ウイルスが発見されて以来 そうした議論が繰り返しなされています 生物に深い興味を示した 理論物理学者のシュレジンガーは 1943年に記した著書の 「生命とはなにか」のなかで *遺伝子の情報に基づいた自己複製 *外部から栄養を摂って代謝反応により活動する という ふたつの性質を有するものが生物である と定義しました ウイルスは 自己複製して子孫を残すことはできますが 自らには細胞がないので代謝反応はできず 感染する細胞なしでは独立して生きていけません そんなウイルスは 生物と言えるのか? 言葉遊びのような側面もありますが そうした議論に結論は得られていません
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