新型コロナ・Tリンパ球の交差免疫
前回ご紹介したように 新型コロナウイルスに感染したことがない人や 抗体を有していない人に おそらく交差免疫により 新型コロナウイルスに特異的なTリンパ球が 誘導されていることを カロリンスカのチームが発見しました こうした交差免疫の存在は オランダ ドイツ イギリス シンガポールなどからも 報告されていますが それに似た内容の研究が 8月にScienceに掲載されました 前回紹介したCELLの論文が8/11のアクセプト Scienceの論文は7/30にアクセプトですから 世に出たのはこちらの方が少し早いことになります この論文は 交差免疫による 新型コロナウイルスに特異的なTリンパ球の誘導を 6月に報告したラホイヤ研究所が中心となり さらにオーストラリアやアメリカの他の研究施設と 共同で行ったものです これまでの研究により アメリカ オランダ イギリス ドイツ シンガポールなどで 新型コロナウイルス未感染者の20~50%に 新型コロナウイルスに対するCD4陽性Tリンパ球反応が見られること が明らかにされていました 今回の研究で明らかにされたことは 以下に示す結果です @交差免疫反応を起こすウイルス成分が同定された 新型コロナウイルスの流行が始まる前に採血した 新型コロナウイルスに対する抗体が陰性のサンプルを用い CD4陽性Tリンパ球の応答を惹起する 142種類の新型コロナウイルスのエピトープを明らかにし そのうちの54%が 新型コロナウイルスのスパイクタンパク由来で 11%はスパイクタンパクの受容体結合ドメイン由来 44%は非受容体結合ドメイン由来だった @Tリンパ球の交差反応を示す人は 以前に風邪コロナウイルスに感染していた 新型コロナウイルスに未感染で抗体が陰性だが 新型コロナウイルスに対するCD4陽性Tリンパ球反応が 感染者とほぼ同等レベルで陽性だった人は 普通の風邪を起こす3種類のコロナウイルスに 感染していた @Tリンパ球の交差免疫反応をウイルス成分は 新型コロナウイルスと風邪コロナウイルスで 共通部分があった 新型コロナウイルスに対するTリンパ球応答を引き起こす 新型コロナウイルスのエピトープと 3種類の風邪コロナウイルス対する Tリンパ球応答を引き起こすエピトープには 交差反応性が認められた 筆者らは メモリーTリンパ球で見られる 風邪コロナウイルスと新型コロナウイルスの交差反応性は そのような交差反応性を見せない抗体とは 好対照であること 誘導された新型コロナウイルスに対する メモリーTリンパ球の反応が 新型コロナウイルス感染症の病態の多様性に 関与しているのではないか と考察で述べています 考察で筆者らが 風邪コロナウイルスと新型コロナウイルスの交差反応性が Tリンパ球では見られるが 抗体では見られないこと を強調したのが印象的です これまでにも何回か紹介しましたが 抗体だけでなく Tリンパ球の反応も検討しないと 新型コロナウイルスに対する免疫応答は 語れないのではないか? というコンセプトが 最近は重要視されています 前回のブログでも述べましたが このコンテクストでいくと ワクチンに関しても 抗体を誘導するエピトープでなく Tリンパ球反応を誘導するエピトープを用いれば ウイルスが変異しても予防効果が変わらないワクチンを 作れるということになり とても興味深いです そして さらに興味深い点は 筆者らが述べているように こうした交差免疫の存在が 新型コロナウイルスの病態形成に どのような影響を及ぼすか? ということでしょう 交差免疫を有している人は 新型コロナウイルスに感染しにくいのか? 感染しても重症化しないのか? カロリンスカ論文で示されていた 軽症者より重症者の方が 新型コロナウイルスに特異的なTリンパ球が少なかったことも 気になります また メモリーTリンパ球が存在していても なんらかの機序により 交差免疫反応が起きないこともあるでしょうし そうした場合に 重症化してしまう可能性はないのでしょうか? そのあたりが とても興味深いです
高橋医院