新型コロナウイルス感染を防御する免疫反応で

重要なのは 抗体か Tリンパ球か?

という点が
最近特に注目されています

重要なのは抗体かTリンパ球か?を問う図

これまでに何回か説明してきましたが
通常のウイルス感染症では
いちど感染すると抗体ができて
それが長期間持続するので
二度と感染しないことが多い

しかし新型コロナウイルスの感染では

*ウイルスを排除する抗体が 出来にくいのではないか?

*出来た抗体が 持続しないのではないか?

といった疑問があり

さらに
病態を増悪させる悪玉抗体
出来る可能性も指摘されていて

抗体に拘っているだけで大丈夫なのか?
という根本的な疑問が呈されています


そうした疑問に答える とても興味深い論文が
8月号のCELLに
スウェーデンのカロリンスカ研究所から
発表されました

カロリンスカ研究所から出された論文

カロリンスカは
書き手が若い頃に留学していたところなので
懐かしいです!

写真は 毎日通っていた研究所の正門ですが
右奥に見える現代風のセンターは
書き手がいた頃は まだ建築の計画中でした(笑)

カロリンスカ研究所の風景

さて この研究では

*新型コロナウイルス未感染者

*新型コロナウイルスに感染した急性期の患者さん

*新型コロナウイルスに感染した回復期の患者さん

*新型コロナウイルスに感染した患者さんの家族

を対象にして


それぞれの群における

*新型コロナウイルスに対する抗体

*新型コロナウイルスを攻撃する細胞障害性Tリンパ球

*メモリーTリンパ球

の有無を検討しました

研究の概要を示す図

その結果

新型コロナウイルス感染の急性期には
インターフェロンγなどを産生して活動性が高く
パーフォリンやグランザイムなどの細胞障害物質を産生する
新型コロナウイルスに特異的な
細胞障害型のCD8陽性Tリンパ球が存在し
その頻度は重症度と相関していました

急性期にCD8陽性Tリンパ球が存在することを示す図
CD8陽性Tリンパ球の反応性を示すグラフ

一方 回復期には
幹細胞様のマーカーを発現し
インターフェロンγ TNFなどを産生する
新型コロナウイルスに特異的な
メモリー型のCD4 CD8陽性Tリンパ球が存在していました

回復期にメモリー型のTリンパ球が存在することを示す図
メモリー型Tリンパ球の反応性を示すグラフ

これらの
新型コロナウイルスに特異的なTリンパ球

*新型コロナウイルスが流行する以前の
 2019年に採血した未感染者

*患者さんの家族で
 新型コロナウイルスに対する抗体が陰性の人

*無症状や軽症だった新型コロナウイルス感染者の回復期

でも認められました

未感染者などでもTリンパ球が認められることを示すグラフ

抗体を有していない未感染者(2019 donors)の
28%で 特異的なTリンパ球を認めています

未感染者での新型コロナウイルスに特異的なTリンパ球の反応を示すグラフ


論文の筆者らは考察で

このように
特異的なTリンパ球が
未感染者や抗体陰性者にも認められたということは
以前のなんらかの感染により
新型コロナウイルスに対する交差免疫
誘導された可能性を示唆する

こうした未感染者や抗体陰性者で認められる
新型コロナウイルスに特異的なTリンパ球が
本当に新型コロナウイルスの予防に
役立つかはわからないが

今回の検討で得た結果から
新型コロナウイルス感染により
さまざまな状態の患者さんやその家族に
ウイルス特異的なメモリーTリンパ球が誘導され
新型コロナウイルスの再感染を
予防する可能性がある
と考えられ

また
たとえ新型コロナウイルスに感染していなくても
一部の人は過去のウイルス感染で得られた交差免疫により
新型コロナウイルスに対する防御能を
有している可能性がある

と述べています

筆者らが示した考察のまとめ


面白い!

でも この研究には
きっとかなり時間とお金を使ったことでしょう(笑)

ウイルスに特異的な抗体ができていなくても
交差免疫で
特異的な細胞障害性Tリンパ球やメモリーTリンパ球が
できるのですね

そんなこと 考えたことがありませんでした

抗体ができる場合と
Tリンパ球の反応が誘導される場合は
何が どのように違うのでしょう?

興味があります
現役の研究者だったら 飛びつきたくなりますね(笑)

それから ワクチンの評価をするときに
抗体だけでなく
Tリンパ球の存在や機能も
検討しないといけなくなります

さらにTリンパ球の反応を起こしやすくする
ワクチンやアジュバントの開発も
重要なポイントになってくると思います

宮坂先生が以前から指摘されていましたが
これは ちょっとしたパラダイムチェンジですね!
高橋医院