新型コロナ・重症化にはネアンデルタール人由来の遺伝子が関与する
新型コロナウイルスに感染しても 無症状や軽症ですむ方と 残念なことに重症化してしまう方がいます いったい何が違うのでしょう? 重症化のリスク因子として 高齢 高血圧 糖尿病 肥満などが挙げられています 一方 遺伝因子の重症化への関与も明らかにされていて 第3染色体の一部の領域や 第9染色体のABO血液型領域が 重症化に関連する遺伝的領域として報告されています そして新たな重症化に関連する遺伝因子が ドイツ・マックス・プランク進化人類学研究所と スウェーデン・カロリンスカ研究所の共同研究として 昨年の9/30のNatureに報告され とても大きな興味を集めています というのも 今回報告された重症化リスクとなるゲノム配列は ネアンデルタール人由来なのです! 一時期 メディアでも盛んに報じられていましたが その詳細について紹介します <研究方法> 3199人の新型コロナウイルス感染で 入院を余儀なくされた患者さんと 入院しなくてすんだ3000人あまりの患者さん 未感染の約90万人の人の遺伝子を 全ゲノムにわたるゲノムワイド解析(GWAS)を行い比較しました なお 未感染者の解析は これまでに収集されているUK BiobankやdeCODEなどの データベースを用いています <重症化に関連するゲノム領域> 重症化した患者さんと しなかった患者さんを比較検討すると 第3染色体の一部 約0.02%を占める 短腕の一領域(3p.21.31の約5万塩基)のバリアントが 重症化した患者さんで見られ リスクを高めていることが明らかにされました また 重症化リスクをもたらすバリアントが13カ所存在しますが 重症者では それらのバリアント同士が強く結びついており バリアントを1つ持つ人は 13個すべてのバリアントを持っている可能性が高いと推測されています これらのバリアントを持つ人は 持っていない人に比べて 重症化の指標となる人工呼吸器を必要とするリスクが最大3倍になり 遺伝的要因のなかで最も強力な因子となります ちなみにこの領域には 炎症や免疫反応に関わるケモカイン受容体の遺伝子が 多く含まれています で とても興味深いのが この重症化に関わる第3染色体の一部のゲノム配列は ネアンデルタールも有していたのです
<ネアンデルタール人との関連> このゲノム配列を ネアンデルタール人やデニソワ人のゲノム配列と比較した結果 南ヨーロッパで見つかった約5万年前のネアンデルタール人のものと よく似ていることが判明しました ネアンデルタール人は 約55万年前に私たちの祖先に進化した集団と分離し しばらくの間は共存していましたが 約5万年前に絶滅しました 現代人にはネアンデルタール人のゲノム配列が一部残っていて ヨーロッパ人やアジア人のゲノムの約2%は ネアンデルタール人から引き継いだと推定されています このことは アフリカを出た現代人の祖先が ネアンデルタール人と交雑したことを示していて ネアンデルタール人が絶滅する約4~6万年前に 交雑があったと推察されています ヨーロッパ人の白い肌 青い目などは ネアンデルタール人に由来する可能性があるのです で 重症化に関わる第3染色体の一部のゲノム配列は 現代人とネアンデルタール人の分離前の共通祖先に存在した可能性は 遺伝統計学的手法により否定でき 約6万年前にネアンデルタール人と現代人が分岐した後に ネアンデルタール人と現代人の交配によって 現代人の祖先のゲノムの一部に流入したものであることが 明らかになりました ネアンデルタール人のゲノムと新型コロナウイルスの重症化? いったい どういうことなのでしょう?
高橋医院