日本免疫学会の学術集会
アーカイブス配信をしてくれたので
診療で見られなかったパートも
12月の週末にじっくり楽しむことができました

で 面白かったのがACE2に関連する話題です

ACE2というワードは
聞いたことがあるかもしれませんが
新型コロナウイルスの受容体
として注目されている分子です

ACE2が新型コロナウイルスの受容体であることを示す図

しかし 元来ACE2は
レニン・アンギオテンシン系という
血圧調節システムで働いている分子です

そこでまず
レニン・アンギオテンシン系について説明しましょう


レニン・アンギオテンシン系

このシステムの大元になるのが
アンギオテンシノーゲンという物質で
肝臓 脂肪組織で作られます

アンギオテンシノーゲンは
レニンという腎臓から分泌される酵素により
アンギオテンシンⅠに変換されます

アンギオテンシンⅠは
細胞膜上に存在するACE1により
強力な昇圧作用を有するアンギオテンシンⅡに変換され

変換されたアンギオテンシンⅡ
細胞膜上に存在する受容体であるAT1R AT2Rに作用して
強力な昇圧作用を発揮します

レニン・アンギオテンシン系について説明した図

ですから
アンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡに変換するACE1の
作用を阻害するACE阻害薬
アンギオテンシンⅡの受容体への結合を阻害する受容体拮抗薬(ARB)
有用な降圧薬として広く臨床で用いられています

レニン・アンギオテンシン系と降圧薬の関係を示した図

一方 近年になり アンギオテンシンⅡは
昇圧作用を有するだけでなく
転写因子のNFkBを活性化して
炎症を起こさせることが明らかになり

アンギオテンシンⅡは炎症を起こさせることを示した図

新型コロナウイルスの重症化への関与も報告されています

新型コロナウイルスの重症化への関与を示す図

<ACE2>

さて ACE2の登場です

ACE2は上述したACE1の親戚のような分子ですが

ACE1が
炎症を起こさせるアンギオテンシンⅡを誘導するのに対し
ACE2はアンギオテンシンを代謝 分解させて
ACE1に拮抗する作用を示します

アンジオテンシンⅠからアンジオテンシン1-9への変換
アンジオテンシンIIからアンジオテンシン1-7への変換
を行い 抗炎症作用を示すのです

ACE2は抗炎症作用を示すことを示す図


<ACE2の発現パターン 発現量>

全身のさまざまな臓器に発現していて
膵β細胞 脂肪細胞
心血管系の内皮細胞
肺胞上皮細胞
腎臓の細胞
小腸上皮細胞
脳神経細胞
免疫細胞
精巣 卵巣の細胞
などに見られます

ACE2の発現パターンを示す図

また 発現量は年齢とともに増加
女性よりも男性の方が発現量が多い傾向があります

ACE2の発現量の性差 年齢差を示すグラフ

子供や女性はACE2の発現量が少ないので
感染率や重症化率が低いのではないという推測もあります

運動や喫煙によっても発現は上昇し
心疾患 高血圧 慢性閉塞性肺疾患などでも
肺におけるACE2発現量が上昇しています

喫煙者でACE2発現が低下することを示すグラフ


ACE2という分子について
イメージすることができたでしょうか?
高橋医院