悪玉ヘパトカイン
今日は 代謝調節に悪影響を及ぼす 悪玉ヘパトカインの紹介をします <Fetuin-A> 炎症を惹起し インスリン抵抗性を誘導することで 糖尿病や 心筋梗塞などの心血管系疾患の発症に関わる悪玉です また 単球や脂肪細胞からの炎症性サイトカイン産生を増強し 善玉アディポネクチンの産生を抑制します NAFLDでは 血中で増加しますが 体脂肪の量とFetuin-Aの量は関係ありません NAFLDと生活習慣病を結び付ける因子と 見做されています 血中Fetuin-Aの増加は 糖尿病発症のリスク因子と考えられていて 糖尿病では血中で増加しますが 体重を減量するとFetuin-Aは減少します また Fetuin-Aの遺伝子多型が 糖尿病の発症に関与します 一方 生活習慣病では 動脈硬化のマーカーと正の相関を示します 高血糖になったり 栄養過多で血中遊離脂肪酸が増加すると それらの刺激により 肝臓からの産生が促進します 興味深いのは 遊離脂肪酸が TLR4という受容体に結合するときに Fetuin-Aが その結合を強めるアダプター分子として働いて 単球や脂肪細胞からの炎症性サイトカインの分泌過剰 →インスリン抵抗性の誘導を 促進することです 過剰な遊離脂肪酸により 慢性炎症やインスリン抵抗性が誘導される機序に 関与しているかもしれません <Selenoprotein P:SeP> 骨格筋や肝臓での インスリンのシグナル伝達を障害して インスリン抵抗性を誘導し 糖尿病などの原因となる悪玉です 生理的な状態では インスリンにより 肝臓のSePの遺伝子は発現抑制されていますが 空腹時でインスリンが存在しなくなると SePは発現するようになり インスリン抵抗性を誘導することで 低血糖になるのを防ぎます つまり 生理的な状態では インスリンとSePが協調して血糖レベルを 維持しているわけです しかし 肝臓がNAFLDになると 肝臓ではインスリン抵抗性が存在するため インスリンによる抑制がとれて 発現が増加します 実際に NAFLDや内臓肥満では 血中SePが増加し 糖尿病でも増加して インスリン抵抗性を増強します また 善玉アデイポカインのアディポネクチンの 産生を抑制します NASHを悪化させる要因のひとつである 小胞体ストレスでも SePの発現が誘導されるので 悪循環が形成されてしまいます 一方 VEGFという 血管増殖因子による血管新生を抑制するので 糖尿病の合併症の血管病変の進行を助長するという 別の悪玉作用も有しています <LECT2> 骨格筋に選択的に作用して インスリン抵抗性を誘導するとともに NAFLDや動脈硬化の病態を促進させる悪玉です 肥満の方やNAFLDの方では 血中LECT2値は高値で BMIやインスリン抵抗性の程度と 正の相関を示します エネルギー過剰状態で発現が上昇する 飽食応答ヘパトカインで 細胞内の栄養状態が飢餓になると 発現してくるAMPキナーゼにより LECT2の発現は低下しますが 栄養過多でエネルギーが過剰になると AMPキナーゼが不活化されるので LECT2の発現が増加してきて インスリン抵抗性の誘導といった悪さをします このように 悪玉ヘパトカインの多くは 栄養過多の状態で発現が誘導され その悪玉ぶりを発揮します また NAFLDになることで 発現増加してしまうものもあります NAFLDや糖尿病の患者さんの血中で 高値を示すものが多く インスリン抵抗性の誘導や 善玉アディポカインの アディポネクチンの産生抑制により まさにNAFLDと他の生活習慣病をリンクさせる因子です 将来は 悪玉ヘパトカインを制御できる物質が NAFLDや糖尿病の新たな治療薬として 登場するかもしれません 研究の発展が楽しみです
高橋医院