脳と腸の密接な関係
機能性ディスペプシアや 過敏性腸症候群の解説で これらの機能性胃腸障害は 胃腸だけに問題があるのではなく 脳にも問題があることを説明しました 正確に言うと 脳と腸との相互作用に問題があります この脳と腸との相互作用のことを 脳腸相関 と呼びます 最近は乳酸菌製剤などのコマーシャルでも 脳腸相関が話題になっているので 聞き覚えがある方もおられることでしょう さて いよいよ 機能性胃腸障害の病態の本質ともいえる 脳腸相関の説明をしますが その前に どうして脳と腸が関係するの? という素朴な疑問をお持ちの方が多いと思いますので 脳と腸の意外な間柄について まず解説します 「腸は第2の脳である」 といったフレーズは 最近 色々なところで見聞きします 特に 腸内細菌叢への関心が 高まってきたことから 腸の意外な働きに注目が集まっており そうしたコンテクストでも 「腸は第2の脳」と クローズアップされています しかし 腸は第2の脳 というより 脳の祖先は腸であるという方が 的を得ているのです というのも ヒトの体の進化・発生の過程からみると 腸はあらゆる臓器の原型だからです 受精卵から ヒトの体が出来てくる発生の過程では まず消化管の原基(原腸)ができて そこから *消化管 肺などができる 内胚葉 *筋肉 骨 血管などができる 中胚葉 *神経 皮膚などができる 外胚葉 が分かれてきます そして 消化管の周りにできた神経系が 脳をはじめとする 全身の神経系の基本形となります ですから 腸には 脳に存在して機能しているのと同じ 神経伝達物質が 数多く存在します *記憶や学習に関係する アセチルコリン *ストレスに関係する アドレナリンやノルアドレナリン *不安やうつに関係する セロトニン などです これらは進化的に見て もともと腸にあったものが 脳に持ち込まれたと考えられています さらに 腸管では 消化管ホルモンと呼ばれる 胃腸で産生されて 消化管の運動を制御する物質が存在し これらのなかには 胃で産生されるグレリンのように 脳に影響するものもあります また 腸管には 脳に存在する 神経伝達に関わるニューロンと同じものが 2千万以上も存在していて 上述の神経伝達物質の働きにより 脳と協調または独立して 腸管の運動や分泌を制御しています このように 腸管では *ホルモンやセロトニンなどの 神経伝達物質が産生され *ニューロンが多数存在していて 脳との類似性が強いため 脳は中枢神経系(CNS) と呼ばれるのに対し 腸管は腸管神経系(ENS) と呼ばれ 腸は第2の脳である と言われているのです そして 脳と腸管は 互いに影響を及ぼし合っています *脳で感じたストレスは 消化管の運動に影響を及ぼし *消化管で生じた異常は 脳に伝えられ ストレスや不安のもとになる 脳と腸の意外な関係を イメージしていただくことが できたでしょうか? 次回は 脳腸相関について さらに詳しく解説します
高橋医院