アポタンパク
中央区・内科・高橋医院の 健康のための栄養学に関する情報 消化管から吸収された 水に溶けない脂質が 肝臓や脂肪組織などの全身臓器に 血流にのってたどりつけるのは リポタンパクという粒子に パッケージされて運ばれるから という説明をしましたが リポタンパク粒子を構成する 重要な因子のひとつが アポタンパクというタンパク質です 今日は少しオタクな話題で恐縮ですが このアポタンパクの説明をします 実は書き手は医学生時代に このあたりのことは 何度教科書を読んでも理解しきれず いまひとつぼんやりとしていたので 再度勉強し直しました それで少しすっきりしたので 説明したくなった次第で 申し訳ありませんが 付き合ってください(苦笑) さて リポタンパク粒子には *カイロミクロン VLDLという 主に中性脂肪を運ぶ粒子 *LDL HDLという 主にコレステロールを運ぶ粒子 が存在することを解説しましたが それぞれのリポタンパク粒子は 異なる種類のアポタンパクを 表面に有していて そのアポタンパクが 各リポタンパクの働きや代謝に 深く関与しています <アポタンパクの働き> アポタンパクは リポタンパク粒子のいちばん外側に位置しますから リポタンパクが 血液の流れに乗って目的の臓器にたどり着くと そこで目的臓器とさまざまな反応を行います たとえば 肝臓や脂肪組織などにたどり着いたとき リポタンパクは アポタンパクを使って組織中に取り込まれます また ある種のアポタンパクは リポタンパク粒子が運んでいる中性脂肪を 分解する酵素を活性化します このように アポタンパクは 脂質代謝に非常に重要な役割をはたしているのです <カイロミクロンのアポタンパク> カイロミクロンは 数種類のアポタンパクを有していますが 小腸からの脂質吸収には Apo B48が関わります また カイロミクロンが運ぶ中性脂肪は 目的の臓器に達すると その臓器の血管内皮に存在する リポタンパクリパーゼ(LPL)という酵素により 脂肪酸に分解されて 利用されたり蓄積されたりします このとき LPLを活性化するのにA po C-II というアポタンパクが必要になり カイロミクロンは HDLからApo C-IIを借りてきます LPLが活性化されて 無事に中性脂肪が分解されると カイロミクロンは HDLにApo C-IIを返します またカイロミクロンは HDLからApo Eというアポタンパクも 借りてきます Apo Eは カイロミクロンが中性脂肪を失った形の カイロミクロンレムナントが 肝臓に取り込まれるとき 肝臓のカイロミクロン受容体と一緒になり 取り込みを効果的に補助します このようにApo Eは カイロミクロンに必要な分子ですから カイロミクロンはHDLに Apo C-IIを返しても Apo Eは返しません カイロミクロンとHDLの間で アポタンパクの貸し借りがあり しかも 借りたものの一部は返して 一部は返さない ヒトの体というのは 実に巧みにできていて面白いものです <VLDLのアポタンパク> VLDLも カイロミクロンと同様に 目的の臓器にたどり着いて 中性脂肪を分解して脂肪酸を受け渡すとき HDLからApo C-IIを借りてLPLを活性化し 終了後には返します さらに VLDLの代謝物のVLDLレムナントが 肝臓に取り込まれるときも HDLから借りたApo Eが 効率よく取込まれるようにします <VLDL LDLのアポタンパク> VLDL LDLに特徴的なアポタンパクは Apo B-100で コレステロールを運ぶLDLが 肝臓や脂肪組織などに取り込まれるときに LDL受容体とApo B-100の共同作業により 効率よく取込まれます <HDLのアポタンパク> HDLに特有のアポタンパクは Apo A-1です Apo A-1は 末梢組織から遊離コレステロールを HDLに取り込む働きをする酵素の LCATを活性化します Apo A-1とLCATの作用により 血管壁などの末梢組織に存在するコレステロールは リポタンパク粒子HDLに取り込まれていきます こうして 内部にコレステロールを貯めこんだHDLは 肝臓に運ばれますが 肝臓に存在するHDL受容体とApo A-1の共同作業により HDLは肝臓に効率よく取込まれ 内部のコレステロールが 肝臓内で利用されます このように Apo A-1はHDLの働きに必須のアポタンパクと言えます 今日説明したアポタンパクのメンバーをまとめた表です 個々のリポタンパク粒子が有するアポタンパクが リポタンパクの機能や代謝に 深く関わっていることを イメージしていただくことができたでしょうか? こうしたアポタンパクの遺伝的欠損などは 遺伝性の脂質異常症の原因にもなります 脂質代謝は 奥が深いです 今日は オタクな話にお付き合いさせてしまい 恐縮でしたが 体内で脂質を運搬しているリポタンパクの 構成因子のアポタンパクが 脂質代謝に関わる酵素を活性化する現象は とても興味深く 毎度のことながら ヒトの体は よくできているものだと痛感します
高橋医院