慢性炎症はなぜ持続するか
普通 炎症は一過性に収束するのに どうして飽和脂肪酸などの DAMPが関与した自然炎症は 慢性化してしまうのでしょう? 炎症が持続する機序として推定されるのは *炎症のアクセルが持続する *炎症のブレーキが破綻している のふたつです 生活習慣病では 乱れた食生活などにより 飽和脂肪酸やAGEなどのDAMPが 常に体内に存在しているため アクセルが持続してしまうことが 慢性化する大きなひとつの要因と思われます 一方で ブレーキの不具合も 関与していると考えられています では 炎症を制御するブレーキとは いったいどのようなものなのでしょう? <自然免疫のブレーキ> PAMPやDAMPにより PRRが刺激されて起こる炎症は いくつかの機序により制御されています @n-3系脂肪酸とその代謝産物 多価不飽和脂肪酸には n-3系とn-6系があり n-6系脂肪酸の アラキドン酸から作られる生理活性物質の エイコサノイド系 プロスタグランジン ロイコトリエンは 炎症反応を起こさせます 一方 n-3系脂肪酸は 脂肪酸の合成過程における n-6系との競合作用により 抗炎症作用を示すだけでなく EPA DHAなどは 独自の炎症抑制作用を有しています 青魚に多い EPA DHAですね! また近年は EPA DHAの代謝産物も 炎症抑制作用を有することが明らかになり EPAが炎症部位で代謝されてできる レゾルビンE1 DHAが炎症部位で代謝されてできる レゾルビンD プロテクチンE1 などの抗炎症作用が報告されています @M2マクロファージ 抗炎症性マクロファージ マクロファージは 異物を取り込んで免疫反応を開始させる免疫細胞ですが *炎症を起こさせるM1タイプ *炎症を抑制するM2タイプ があることがわかってきました M1マクロファージは 病原体侵入などの刺激で 血液中の単球が組織内に侵入してくるもので 炎症性サイトカインを産生して 炎症を起こさせます 一方 M2マクロファージは もともと組織に常在していて 刺激を受けてその場で分化し IL-10などの 抗炎症性サイトカインを産生して 炎症反応を抑制し 組織修復 血管新生も助けます M1マクロファージは 肥満 糖尿病の病態に関与することが 明らかにされています もともと脂肪組織には M2マクロファージの 分化に必要なIL-4を産生する Tリンパ球 自然リンパ球が多いため 正常人の脂肪組織には M2マクロファージが多く存在します しかし肥満の進行により 脂肪組織内のM2マクロファージがへり M1マクロファージが増えてきて M1マクロファージが産生する TNF-αなどにより インスリン抵抗性が起こってきて 糖尿病に進行します また 肥満で増加する長鎖飽和脂肪酸を 脂肪細胞のTLR4が認識し 脂肪組織内で炎症性サイトカインが作られて M1マクロファージが増えてくるという 悪循環も形成されてしまいます こうした自然免疫反応の制御機構に 異常や変化が生じると 炎症が持続してしまうと推察されています <オートファジーの破綻と炎症の持続> 炎症の持続には オートファジーによる自然炎症の制御の異常も 関与すると推測されています @オートファジー オートファジーは 大隅先生が発見された 細胞内で不要になった細胞内小器官や分子を 取り囲んで小胞を作り 分解・消化してしまう現象で 大隅先生は数年前にこの業績で ノーベル賞をとられました @オートファジーによる自然炎症の制御 オートファジーは 損傷したファゴゾーム ミトコンドリアなどの 細胞内小器官の排除により そこからのDAMP放出を抑えることで インフラマソーム活性化を抑制し 自然炎症の発症を抑え込んでいます @オートファジー活性の低下が さまざまな炎症性疾患の発症に関与する しかし こうしたオートファジー機構が破綻すると マクロファージなどから 大量のDAMPが放出され *自然炎症によるIL-1 IL-18産生の増強 *NLRP3インフラマソームの活性化が増悪 が起こり 慢性炎症が惹起されてしまいます オートファジーの破綻は 動脈硬化 糖尿病 脂肪肝などの 生活習慣病の発症に関わると考えられていて 現在 とても注目されています
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