近松の文楽 心中天網島の続き

舞台は 午前11時から始まり
30分間の昼休憩をはさんで午後3時まで

上演時間が書かれた表

文楽って ちょっと長いのですよね(笑)

で 最初の河庄の段では
侍を装った治兵衛の兄の孫右衛門が
小春を演席に呼んで
彼女に治兵衛との心中の意志があるか探ります

小春はその場で
治兵衛と心中するつもりはないと語りますが

そのやり取りを 
外から盗み聞きしていた治兵衛は
小春に裏切られたと激怒します

やがて 治兵衛が乱入して
治兵衛 孫右衛門 小春の3人が
それぞれの思いをぶつけ合う場面になりますが

それぞれの思いをぶつけ合う場面の様子


小春を 吉田和生
孫右衛門を 吉田玉男
治兵衛を 桐竹勘十郎

という大御所がそれぞれ操るという
超豪華な顔ぶれで 見応えがありました

和生さんは
全く表情を顔に出さず淡々としていて

吉田和生さん

玉男さんは
ときどき きりっとした表情になる

勘十郎さんは 比較的表情が表に出る

吉田玉男さん 桐竹勘十郎さん

人形を操る時の様子が3者3様で 
とても面白かった

そして 孫右衛門は
小春が治兵衛の妻のおさんから
「心中を思いとどまり治兵衛の命を救って欲しい」
と願う手紙を受け取っていて
それが故に治兵衛にわざと冷たくしていることを見抜き
彼女の複雑な気持ちを理解しますが

治兵衛は単純に 
小春に裏切られたと思い
ひとり荒れ狂うのです

次の紙屋内の段では
職場で仕事もろくにしていない治兵衛が
自分に金がなくて小春を身請けできなかったと
太兵衛に言いふらされたことを怒りますが

おさんの様子

妻のおさんは その話を聞いて
小春が治兵衛を裏切ったように見せかけたのは
自分が彼女に出した手紙のせいだと気付き

小春は 
太兵衛に身請けされるくらいなら死んでしまおうと
考えていることを察し

そんな小春を死なせないために
自分の嫁入り道具の衣装まで売って金を工面し
治兵衛に小春を身請けさせようと画策します


しかし 婿の治兵衛の行いに愛想を尽かし
娘のおさんの 
小春への義理を大切に思う気持ちも知らない
おさんの父親により 彼女は実家に連れ戻されます

こうして万策尽きた治兵衛と小春は
心中の場所を探して大長寺にたどり着きます

小春は おさんとの約束を果たせず
治兵衛と心中することになったことを心残りと嘆き
通常の心中のように 
二人が重なるようにして逝くのではなく
せめて別々の場所で死のうと治兵衛に頼んで
治兵衛の刃に倒れます

治兵衛はそのあと 別の場所で首をつり
おさんと孫右衛門が必死に食い止めようとした心中が
遂に行われてしまうのです

心中の様子

ということで
このお話の中で強く心を打つのは
おさんと小春の
女同士の義理を果そうとする行動です

特におさんは 治兵衛に小春を身請けさせたら
自分の居場所がなくなってしまうのを覚悟の上で
小春を死なせないようにするため
嫁入り道具を売ってまで
身請けの金の工面をするのです

金の工面をするおさん

このおさんの深い情には 心打たれます

一方 治兵衛は 
あまりに幼く 自分勝手です

いい歳をして 健気な妻や幼い子供もいるのに
分別なく 若い小春との心中を
なんのためらいもなく選んでしまいます

心中の間際に小春に諭されなければ
ふたりで同じ場所で死んでいたかもしれません

だいたい 
どうして小春と心中しようとしたのか
その理由がもうひとつわかりません

それがわからないのは
観る者にパッションがないからかもしれませんが(苦笑)

いずれにせよ 
治兵衛の言動 行動は あまりに情けない
男って そんなものなのでしょうか?(苦笑)

治兵衛の様子

さて 朝日新聞に今回の舞台評が出ていて

勘十郎さんが
男の弱さ 情けなさを徹底して表現して見せた

と書かれていましたが

書き手も全くその通りだと思いました

語る勘十郎さん

勘十郎さんは 去年大阪で観た「女殺油地獄」でも
与平のネガティブな部分を
見事に表現されていて印象的でしたが
今回も素晴らしかった!

ずいぶん昔に見たテレビ番組で勘十郎さんは
人形遣いの極意は
「人の気配を消すこと」と言われていました

勘十郎さん

でも 人形遣いの気配が
いい意味で少しあるのも アリなんじゃないかと
勘十郎さんが操った与平や治兵衛を観て
ふと思ったのですよ
高橋医院