オイディプス
別に 海老様のファンというわけではないのですよ 黒木瞳さまが好きというわけでもない この芝居を観に行ったのは 「オイディプス」 だから パンフレットには ギリシャ悲劇の大傑作を 歌舞伎とダンス ジャンルを超えたコラボレーションが 前代未聞の舞台を生み出す!! なんて仰々しい謳い文句が書かれていましたが 歌舞伎とダンスのコラボレーションに 期待していたわけでもありません シアターコクーンで継続して行われている Discover world theatreは 新進気鋭の外国の演出家が 古典劇を料理するシリーズで 以前「罪と罰」を観て 結構面白かった だから シリーズの一環として このお芝居の案内が来たときに 行ってみようかなと思ったのです だって オイディプス ですよ! 中学の頃 流行り病にかかったように ギリシャ悲劇にはまって 読みふけりましたが その頃 この本を読んで受けた衝撃が 疼いたのですよ(苦笑) ソポクレスさん よくこんなストーリーを思いつきましたねと ホントにビックリしたものです!
そのストーリーを簡単に紹介すると ギリシャの地方都市コリントスの 王ライオスと その妃イオカステの間に 生まれたオイディプスは 自分の父を殺し 母を娶ることになる と予言を受けます その予言を避けるため ライオスはオイディプスを山野に捨てますが オイディプスは生き延びて やがて成長し テーバイという都市の危機を救い 英雄の王として 民衆に尊敬されます しかしデーバイで疫病が流行り その状況を解決するために 神託をうけたところ 先王のライオスを殺した犯人を捜し追放すれば 危機から逃れられると言われます オイディプスは ライオス殺しの犯人を捜し始め やがて 知らぬ間に自分が父ライオスを殺していて 母イオカステを自分の妃としていたことがわかります 予言が現実になっていたことを知ったイオカステは 自ら命を絶ち オイディプスは自分の両眼をつぶして デーバイを去り さすらいの旅に出ていくのです 再度 ホントによく こんなストーリー展開を思いついたものです で 登場人物の人間関係が複雑なので ここで ちょっと整理しておきましょう(笑) オイディプスを海老蔵さんが イオカステを黒木瞳さんが演じ 核シェルターのような シンプルなデザインの舞台で 悲劇が演じられていきます 演出は イギリス人のマシュー・ダンスターさん 歌舞伎とダンス ジャンルを超えたコラボレーション云々と 喧伝されていましたが とてもオーソドックスな演出のように思いました コロスと呼ばれる デーバイの市民たちの集団が 神を信じながら演舞するシーンが ちょっとエキセントリックで印象的でした 群衆は 世の中 この場合は物語を どう動かして行くのか どうしてそこに 神が必要なのか そもそも どうして予言者や神託に あのような大きくて絶大な存在意義があるのだろう そんなことを感じながら 舞台を観ていました マシューさんはプログラムで 革命などが起こるとき 民衆は 新しい自由な人々に 指導者として立って欲しいと望むのに それが宗教的な過激派に 取って代わられてしまうことが少なくない 権力の下地に宗教を持つ人々は存在する と語り この舞台で登場する神は 具体的な名前のない神で 観客それぞれが 自分の神をイメージして欲しい とも語られていて なるほどな と思いました ポイントになるのは 神や宗教そのものでなく それを信じる側の人間なのですね(笑) オイディプスに自分が父親殺しであることを悟らせる 重要な役である羊飼いを演じた 笈田ヨシさんという とても印象的だった俳優さんが ギリシャ悲劇には 神や超越者ともいう存在が 物語の上に大きくかぶさっていて 我々の日常は そうしたことから切り離されているけれど 劇場で演じる側と観る側が ひとつになって神と向き合う時間は 人間の領分を超えた大きな力を共に感じる場になり得て それがギリシャ悲劇の良いところだと思う と語られていて とても興味深いと思いました 笈田さんは若い頃 イギリス演劇界の異端児にして改革者の ピーター・ブルックの芝居に出演されていて 今でもパリを拠点に活動されているそうで ちょっとマークしようかなと思いましたよ(笑) 幸いなことに 舞台にとても近い前の方の席だったので 海老蔵さんの迫真の演技を 汗が飛んできそうな距離で楽しむことができました やっぱり 華はありますね! オイディプス王 もう1回 読み直そうかな
高橋医院