新型コロナ・ワクチンはできるか?
いよいよ 新型コロナウイルスのワクチンについて説明します 待望のワクチンは できるのでしょうか? できるなら いつ頃になるのでしょう? 現在 世界の40以上の企業と研究機関が ワクチン開発に挑んでいて 60件以上の研究が進められています しかし 開発はなかなか難しい という意見も聞かれます <SARSワクチン研究の成果の利用> 期待されているのが 新型コロナウイルスのコロナウイルス仲間である SARS MARSの研究成果の活用です 2002年にSARS 2012年にMERSが流行した際に ワクチン開発が精力的に行われましたが SARSは ワクチンの臨床試験が行われる前に流行が終わり MERSは 症例が少なくワクチン開発に 資金提供されなかったため 結局 有効なワクチンは世に出ませんでした しかし SARSと新型コロナウイルスは 遺伝子構造が非常に類似していて 79.5%ほどが同じです また 双方とも 細胞に吸着する際に 表面に発現するスパイクタンパクを利用して 細胞のACE2に結合しますが 双方のスパイクタンパクの レセプター結合ドメイン(RBD)タンパクの アミノ酸配列は 80%以上の相同性を有しています スパイクタンパクに対する抗体は 新型コロナウイルス の細胞への吸着を阻害するので スパイクタンパクは ワクチンの第1候補です こうしたことから SARSワクチンを開発した際の情報は 新型コロナウイルスのワクチン開発に 寄与できると期待されています 注意すべきなのが SARSワクチン開発時の動物実験で ワクチン投与により 肺に好酸球浸潤による炎症が 生じたことです これは ワクチンによる免疫増強現象と見做されました スパイクタンパク全体でなく 前述したRBDタンパクを用いると 免疫増強は回避されたので スパイクタンパクのエピトープの一部は 炎症を増強して病態を悪化させる可能性があると 推察されています エピトープとは 免疫反応を起こさせる部分のことです こうした情報も 新型コロナウイルスのワクチン開発に寄与します <新型コロナウイルスワクチンの候補分子> 病原体の構成成分のうち 免疫系により強く認識される部位を ワクチンに用いると 効率的に免疫反応を誘導できます こうした部位が ワクチン開発のターゲットになります 新型コロナウイルスのワクチンでは ウイルスの以下のような部位が 候補分子になっています @スパイクタンパク(Sタンパク) ウイルス表面上に存在する スパイクタンパクは 最も有力な候補です S1 S2のサブユニットがあり 上述したレセプターに結合するRBDは S1サブユニットに存在します 多くのエピトープを含有し 免疫原性が高いのですが 上述したように ワクチンにSタンパク全体を用いると 免疫増強現象が起きる可能性があるので Sタンパクの一部を用いる方法が 試みられています @RBDドメイン RBDドメインに対する抗体は ウイルスの細胞への吸着を ダイレクトにブロックするので ウイルス感染が抑えられます ですから RBDドメインに対する抗体ができるように RBDを用いるワクチンが増えています NTD FPといった S1サブユニットに存在するタンパク質が RBDの代わりに使用されることもあります @ヌクレオカプシドタンパク(Nタンパク) 最も多く存在するタンパクで ヌクレオカプシドの形成 情報伝達 RNA複製 mRNA転写 などの様々な機能を有しています 抗原性が強く SARS患者さんの89%が Nタンパクに対する抗体を有していました 細胞性免疫も活性化するとされていますが 中和抗体を作らないという報告もあります @膜タンパク(Mタンパク) ウイルス表面に存在し ウイルスの組立てに関与するとされます 免疫原性が強く 液性免疫も細胞性免疫も活性化すると 報告されています 次回は このような候補分子を含んだワクチンを どのようにして作成するか説明します
高橋医院