食の起源

第4話は「酒」がテーマです

「酒」がテーマの番組の広告ポスター

ヒトがお酒を飲めるようになり
やがて飲酒を楽しむようになった進化の経緯が紹介されます

@ヒトの祖先は遺伝子変異でお酒を飲めるようになった

1200万年前 
木の上で暮らしていたヒトの祖先に
突如 遺伝子変異でアルコール分解遺伝子が出現し

ゴリラ チンパンジー そして人間といった
一部の類人猿にだけ受け継がれました

ほとんどの動物は
体内でアルコールを分解する力が弱く 酒を口にできないのに
祖先からアルコール分解遺伝子を受け継いだ類人猿や人間は
強いお酒でも飲むことができるようになったのです

お酒を飲む類人猿


@アルコール分解遺伝子を持つようになった理由

およそ1200万年前のアフリカ大陸

地球規模の気候変動で大地が急速に乾燥化し始め
森の木が次々と消滅し果実も減り
食べる物がなくなってしまいました

運良く地面に落ちた果実をみつけても
完熟して実に含まれる糖分が自然発酵し
アルコールに変化していることが少なくなく
それを食べた祖先たちは 酔っぱらって気持ち悪くなった

酔っぱらって吐いている猿

そんな中 ある時
一部の祖先の体内で遺伝子に突然変異が起き
アルコール分解遺伝子が
偶然とても強力になったと考えられています

アルコール分解遺伝子について説明する図

強いアルコール分解遺伝子を期せずして手にいれた祖先は
発酵した果実を食べても酔っ払うことなく
栄養を得ることができました

こうして幸運にも
「酒になった果実」を食べられるようになった祖先だけが生き延びて
数を増やしていったと考えられます

ワインを飲む人類の祖先

遺伝子の突然変異は いつも偶然起こります

この遺伝子が今でもなくならず
現在のわれわれにまで伝わっているというのは
たぶん強いアルコール分解遺伝子が
生きる上で何か役に立ったからだろうと
推測されています


ストーリーはできていますが
では どうしてアルコール分解遺伝子を強くする突然変異が
起きたのでしょう?

突然変異は あくまでランダムに起きるもので
たまたまその突然変異が
発酵した果実を食べて栄養を得て生き延びるという
人類にとって益となる現象に貢献でき
そのため変異した遺伝子が存続した
ということでしょう

進化とはそういうもので
その原因となった遺伝子変異がなぜ起きたかを
あとから合目的的に解釈するのは
避けるべきだと思います


ちなみに ここで指摘された
「アルコール分解遺伝子が偶然とても強力になった」
という現象は 既に説明した
アルコール脱水素酵素(ADH)の遺伝子多型
のことと思われます

アルコール脱水素酵素の遺伝子多型について説明する図


@ヒトは自らすすんで酒を飲むようになった

1万2千年前に人類は農耕を始め
その頃 小麦を発酵させて酒・醸造酒を造っていたと考えられています

酒には 人々の友好を深め一致団結させる力があります

神殿建造のために集まった人たちが
大量に造った酒をみんなで飲み 
宴を開いていた可能性があると推察されています

祖先たちが発見した 
人々を結びつける 酒の不思議な力

初対面の人に緊張感や警戒心を抱くのは
理性が働くからで
理性は大脳皮質で形成されます

アルコールによって大脳皮質の働きが弱まり
理性が弱められ 警戒心が解けて 気分が開放的になり
人と打ち解けやすくなると考えられる

アルコールで理性が弱められることを説明する図

まさに酔いがもたらす効用

これを皮切りに
酒は 人と人を結び文明や社会を築く特別な力として
欠かせない存在になっていきます


昔から 飲み会をやっていたのですね!
今は オンライン飲み会
お酒を介してコミュニケーションをとるスタイルも
しっかり進化しています?(笑)


@酒に脳を乗っ取られる
 酔うための酒 蒸留酒の発明へ

およそ5000年前の古代エジプトでは
ビールが労働者の賃金として支給されるまでになり

ブドウを育てて
ビールより度数の高いワインも造られ始めていました

その頃の壁画に
吐くまで飲む貴族の姿が描かれていたそうです

壁画に描かれた酔って吐く貴族の姿


ここで
「ヒトが酒に脳を乗っ取られる」
という事態が起こり始めます

脳の中には
ドーパミンという快楽物質を放出する細胞があり
アルコールが脳内に増えるにつれて
この細胞が興奮状態になり
歯止めなくドーパミンを放出する

すると快楽が暴走し
飲みたい気持ちを止められなくなる

いわば「アルコールに脳を乗っ取られてしまった」状態

アルコールに脳を乗っ取られてしまった状態を説明する図


アルコールが脳にもたらす酔いの快楽に魅せられて
人類はさらに強い酒を求め始めます

そして8世紀頃には ついに究極の酒を生み出します

ビールやワインなどの醸造酒からアルコール分を取り出して
よりアルコール度数が高い蒸留酒を造り始めたのです

蒸留酒を作っているところ

ブランデー ウイスキー
焼酎 ジン ウォッカなど
少量でもすぐに酔うことができる
まさに「快楽をもたらす酒」です

楽しく宴会に興じるうちに
気づくと人類の脳は アルコールの魔力に乗っ取られ
際限なく飲みたくなる生き物になっていったのです

際限なく強い酒を飲む人


この話は面白かった!

蒸留酒が
酔って快楽を求めるために開発された究極の酒
という認識はなかったです

なるほどねえ
蒸留酒の開発には そういう意義があったのですね

勉強になりました!(笑)

 

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