お酒が強い人 弱い人 酒乱な人
中央区・内科・高橋医院の お酒と健康に関する情報 なぜ世の中には お酒に強い人 弱い人がいるのか? それは アルコールを代謝する酵素に 遺伝子多型があるからです 遺伝子多型があると その遺伝子が作るタンパク質の機能が変化して 最終的に体質が変化するのです <ADH ALDHの遺伝子多型> 前回説明したように エタノールは アルコール脱水素酵素・ADHによってアルデヒドに分解され アルデヒド脱水素酵素・ALDHにより酢酸に分解されます お酒の強さにより影響するのは 悪酔いの原因となるアセトアルデヒドを分解する ALDHですので そちらの遺伝子多型から説明します @ALDH 遺伝子の487番目の塩基が G(グアニン)かA(アデニン)か という遺伝子多型が存在します この違いにより タンパク質の163番目のアミノ酸が グルタミン酸(G)かリジン(A)になり 酵素の活性部位の構造が変化するので アセトアルデヒドを分解する力が異なってきます お父さん お母さんから それぞれ1本ずつ遺伝子を引継ぎますから ALDHの487番目の塩基は GG AG AAのいずれかになります 日本人では GGが56% AGが40% AAが4% という分布です 上図では GGを1*1型 AGを1*2型 AAを2*2型 と表現しています で このALDHの遺伝子多型が 飲酒行動に最も大きく影響します Aがひとつでもあると Gだけの人に比べて ALDHの酵素活性が十数倍も低くなるので アセトアルデヒドが溜まりやすくなり お酒を飲めない下戸になります アルデヒドが分解できず体内にたまってしまい 顔が赤くなり 心臓がドキドキして 吐き気で気持ち悪くなるので お酒が飲めません 但しすぐに酔うので お酒を習慣的に飲むことはなく アルコール依存症にはなりにくい Aはアジア人では約50%が有していますが 白人はほとんど持っていません 白人はお酒が強いのはこうした理由によります @ADH 遺伝子の47番目の塩基が G(グアニン)かA(アデニン)か という遺伝子多型が存在します 日本人では GG(1*1型)が5% AG(1*2型)が35% AA(2*2型)が60% ADHの活性が高いと アルコールをすぐに分解するので 血中アルコール濃度は高くならず 酔いにくい 上の表では GGの1型は 活性が低く AAの3型は活性が高い ということになっていますが 実は違っていて あとで詳しく説明します ちなみにAを持つ人は アジア人では80%ですが 白人 黒人ではほとんど見られません <お酒の酔いやすさ・強さと体質> ということで ADH ALDHの活性と お酒の酔いやすさ 強さの関連について 簡単にまとめると ADHは アルコールそのものを分解するので 活性が高いとすぐに分解され 血中アルコール濃度が上がらず 酔いにくい 活性が低いとなかなか分解されず 血中アルコール濃度が上がるので 酔いやすい ALDHは 悪酔いの原因物質のアルデヒドを分解するので 活性が高いと悪酔いせず後に残らず お酒に強く 活性が低いと悪酔いして お酒に弱い 上手に示されるように ADH ALDHの遺伝子多型と活性の組合せによって お酒を飲んだときの反応が規定されます 活性が両方とも低い人は 酔いやすいし 悪酔いしやすい 両方とも高い人は 酔いにくいし 悪酔いもしない ADHが高く ALDHが低い人は 酔いにくいけれど 悪酔いしやすい ADHが低く ALDHが高い人は 酔いやすいけれど 悪酔いしにくい 読み手の皆さんは どのタイプですか? ちなみにこの遺伝子多型は 自費で解析できると思いますので 興味がある方は調べてみてください <酒乱と体質の関係> さて 長年にわたりアルコールの研究をされている 眞先敏弘先生は ADH ALDHの遺伝子多型と酒乱との関係について 以下のように推察されています まず前提として 高い血中アルコール濃度が持続されると 酒乱になり 血中アルコール濃度が0.2%を超えなければ 酒乱にはなりません で ALDH活性が低い下戸型だと 飲めないので血中アルコール濃度は上がらず 酒乱になりにくい 一方 ADHは *AAだと 酒乱に近い *GGだと 酒豪だが 酒乱ではない *AGだと 中間 どうして アルコール分解能力が高いAAだと酒乱になるの? ADHの活性が高いと アルコール濃度は上がらないから 酒乱にならないのでは? 実は 試験管内では Aの方が酵素活性が高いのですが 体内での実際のアルコール分解速度は Gの方が速いのです ですから Gは アルコールをすぐに分解するので 血中アルコール濃度は上がらず 酒乱にならない Aは 分解速度が遅いので 血中アルコール濃度が急速に上昇し 酒乱になるのです ということで 遺伝的に酒乱になりやすいのは *ALDHは GG *ADHは AA という人になり 日本人であてはまるのは 6人に1人だそうです 最後に お酒と社会の関わりについて解説します <酒と社会> 眞先先生は 「酒乱になる人 ならない人」という著書のなかで 文化によりお酒の飲み方が異なり それは酒乱の多さにも関わる という面白い考察をされています @アルコール乱用者が多い社会 少ない社会 ユダヤ系 イタリア系の社会は 酒を飲む人の割合が他民族よりも高いけれど アルコール乱用者は最も低い スペイン フランス ギリシャ 中国も 同様の傾向があります 一方 アイルランド系社会では アルコール乱用者が多い お酒を飲む人の割合は低いけれど 依存症になる確率は7倍も高いのです どうして このような違いが出てくるのでしょう? @酒の飲み方の違い イタリア スペイン フランスなど 酒乱が少ない国はいずれも 人々がワインをよく飲みます 食事のときには必ずワインを飲むけれど それで羽目を外して騒いだりすることは少ない これらの国では 人前で酔っぱらうこと 酒を飲んで羽目を外すことは マナーに反すると見做されていますし 飲酒時の暴力 セクハラは厳しく禁じられています また 食べながら飲むことを楽しんでいて 社会的ストレスから逃れるという 個人的な目的での飲酒はほとんどしません 一方 アイルランド イギリス 北欧などでは 平日は飲まないけれど 週末には大酒を飲む傾向があります そして ワインでなく アルコール度数の高い蒸留酒を好んで飲みます だから酒乱が多い では 日本人の酒の飲み方はどうかというと 昔から 酒を飲んで羽目を外して ストレスを解消する という文化がありました いつかご紹介した 無礼講の世界で 非日常の「ハレの日」には ストレス発散のために酒を飲み しかも こうした習慣が 社会から容認されていたのです そういえば 日本に来た外国人は 日本人のお酒の飲み方を見てびっくりする と言いますね 気をつけないと(苦笑)
高橋医院