新型コロナ・唾液検査の有用性
新型コロナウイルスのPCR検査数が なかなか増えないことが 社会問題にもなっています 検査数が伸びない理由のひとつが その煩雑さです インフルエンザの検査のように 鼻の奥に綿棒(スワブ)の先を挿入し 鼻咽頭に近い粘膜のぬぐい液を 採取しなければなりません 患者さんにとっては苦痛だし 検査する方も 患者さんが咳をした際に飛沫を浴びて ウイルスに感染してしまうリスクがあります だから完全防御で臨まなければならず 気軽に検査を受けていただくわけにはいかない その問題点を解消するのが 唾液を検体として用いたPCR検査です どうして唾液? と思われるでしょうが 唾液腺の細胞には 新型コロナウイルスが感染する際に使う ACE2が発現しているので 鼻咽頭に感染したウイルスは 唾液腺にも感染します だから 唾液腺から分泌される唾液にも 新型コロナウイルスは存在しているのです そもそも唾液には 感染した微生物のDNA RNAや関連タンパク 抗体などが含まれているので これまでにも 呼吸器に感染するウイルス 自己免疫疾患 糖尿病などの 診断に使われてきたし SARSウイルスも唾液から検出されています ですから 唾液を検体に用いることは とてもリーズナブルなのです さらに 鼻咽頭ぬぐい液の採取に比べ *侵襲性がなく 簡単に患者さん自身が家で採取できる *採取者が感染するリスクがない *特別な採取器具がいらない *何度も検査できる *経済的である といった多くのメリットがあります 4月中旬くらいから 唾液を検体に用いた検討の論文が 世界各国から次々に出され 90~100%の検出率が報告されています オーストラリアの研究では 鼻咽頭ぬぐい液より 若干ウイルス量は低いですが (検出に必要なPCR回数を示しているので 多いほどウイルス量は低い) ほとんど遜色ありません アメリカのYale大学からの報告では 唾液のウイルス量は 鼻咽頭ぬぐい液よりむしろ多く 同じ人の 唾液と鼻咽頭ぬぐい液を比較すると 唾液の方が多くのウイルスが 存在していました ランセットに掲載された 香港からの報告では 唾液のウイルス量は発症後に経時的に減少し 経時的モニタリングが可能でしたし ウイルス量は鼻咽頭ぬぐい液と ほとんど同じでした Yaleの報告では 下段に示す鼻咽頭ぬぐい液では 最初は陰性であとで陽性になることが 複数例でみられましたが 上段に示す唾液では そうしたことはありませんでした さらに興味深いことに 全く症状のない医療従事者で 鼻咽頭ぬぐい液では陰性だった複数の人で 唾液からのウイルスが検出されました 同じような現象は オーストラリアからも報告されています 唾液腺への感染は非常に早期から起こるので 早期診断にも有用ですし 鼻咽頭ぬぐい液よりブレが少ないので 経時的モニタリングに適しています ということで 採取が簡便で 感度 安定性ともに 鼻咽頭ぬぐい液に勝るとも劣らない 唾液を用いたPCR検査は アメリカではFDAが5/8に承認し 日本の厚労省も 5月中に承認する予定だそうです こんなキットで マニュアル通りに行えば 患者さんが自宅で検体を採取できます PCR検査は従来と同じ機器を用いますので 検査数の急激な増加を防ぐためにも 医師が必要と判断した場合にのみ行われますが それでもこれまでと比較すれば PCR検査の敷居は ずいぶん低くなると思われます まだまだ明快な先の見通しはたちませんが 昨日ご紹介した重症例の治療方針の確立や 今日の唾液を用いたPCR検査など いろいろな面で状況が着実に改善しているのは 事実のようです もう少し我慢しながら 更に良い景色が見られるようになるのを 期待しましょう
高橋医院