新型コロナ・サイトカインストームと血栓形成
山中先生とタモリさんの 新型コロナウイルスと免疫に関する番組を 紹介しましたが NHK-BSでは6/27にも BS1スペシャル 「見えざる敵を観る ミクロの目で迫る新型コロナの正体」 という番組を放送していて そのなかで 新型コロナウイルスとサイトカインストームの関係が 紹介されていました ちなみにこの番組は 最新のCGを駆使していて 内容的にも最先端でとても面白かったのですが 専門知識がない方には え~ なに~? という感じだったかもしれません <新型コロナウイルスがサイトカインストームを起こす機序> サイトカインのひとつの IL-6とその受容体を同定された 阪大の岸本・平野先生のお弟子さんで 今は北大で活躍されている村上晃一先生は 新型コロナウイルスで起こるサイトカインストームには IL-6の増幅回路が関与している と言われます @IL-6 IL-6は 炎症を起こさせるサイトカインですが 新型コロナウイルス感染では IL-6の過剰な働きにより ウイルスが感染していない 血管内皮細胞 肺胞上皮細胞などでも 全身的な炎症が起こっている @gp130 その鍵となるのがgp130という さまざまな細胞の表面にある分子で 複数のサイトカインの信号を細胞内に伝えます 通常は gp130はIL-6のシグナルは伝えず 血管内皮細胞 肺胞上皮細胞には IL-6受容体は存在しません @ACE2による炎症反応の増幅 しかし 新型コロナウイルスが体内に侵入してきて その受容体であるACE2を発現した肺胞上皮細胞に 新型コロナウイルスが結合すると ACE2は 本来の働きである アンギオテンシンⅡの分解をしなくなります そうすると アンギオテンシンⅡが過剰になり アンギオテンシンⅡタイプ1受容体に結合し そのために転写因子のNFkBが活性化されて 炎症反応が増幅されます @メタプロテアーゼによるIL-6受容体の切断 この反応により 細胞表面のタンパク質分解作用を有する メタプロテアーゼのADAM17を活性化して IL-6受容体を切断して 血中に可溶性IL-6受容体を放出します @IL-6・可溶性IL-6受容体の複合体による炎症反応誘導 血中でIL-6が可溶性IL-6受容体と結合して複合体を形成し ウイルスが感染していない細胞のgp130と結合して これが2量体を形成すると IL-6のシグナルが細胞内に伝達されるようになります こうして 炎症反応が ウイルス感染細胞から非感染細胞に伝達され ウイルスに感染していない細胞でも 炎症反応が起こるのです @メタプロテアーゼによるTNF受容体の切断と TNF・可溶性TNF受容体結合体による炎症反応の伝達 一方 ADAM17は IL-6の時と同じように 細胞表面のTNF受容体も切断し TNFと可溶性TNF受容体結合体により TNFシグナルがウイルスに感染していない細胞でも 伝わるようになります TNFはNFkBを活性化して 炎症反応を増幅します @増幅回路の形成による サイトカインストームと全身での炎症反応の惹起 これらの一連の反応の結果 IL-6やTNFがさらに産生され 上述した反応が繰り返されて増幅回路が形成され 回路がグルグルとまわり サイトカインストームが起こる というのです こうした機序で厄介なのは 炎症がウイルスに感染していない 全身の細胞でも起こることで まさに全身でサイトカインストームが 吹き荒れることになります <サイトカインストームによる血栓形成>
少し話が変わりますが サイトカインストームは血栓形成にも 関わっているようで こちらの話題は タモリさんの番組で紹介されていました 血栓形成が 新型コロナウイルス感染の重症化に関与していることは 以前にご紹介しました @サイトカインストームによる免疫細胞の自爆攻撃の誘導 サイトカインストームは 免疫細胞の自爆攻撃を過剰に引き起こします 好中球などの免疫細胞が 自爆して自らのDNAを網の目のように周囲に放出して ウイルスを捉えて殺そうとするのです @免疫細胞の自爆による血栓形成の誘導 放出された網の目のようなDNAは NETSと呼ばれますが NETSは周囲の血液凝固因子も中に巻きこむので そこで血栓ができやすくなります こうして サイトカインストームが起こると 全身の血管内で血栓ができやすくなる というわけです 重症化に関わる2大因子とも言える 血栓形成とサイトカインストームが このように結びついているとは びっくりしました とても興味深いことです
高橋医院