多くの人が心配されているのは

新型コロナウイルスとインフルエンザの
両方に感染することが起こるのか?

もし両方に感染してしまったら
単独感染に比し病状が悪化するのか?

ということだと思います


<ウイルス干渉>

一般に 2種類の異なるウイルスの同時感染は
少なくとも試験管内では
起こりにくいとされています

ウイルス干渉という
1個の細胞に複数のウイルスが感染したときに
一方あるいはその両方の増殖が抑制される現象
認められるからです

ウイルス干渉について説明した図

干渉が生じるメカニズムとしては

*一方のウイルスが
 吸着に必要なレセプターを占領あるいは破壊してしまうため
 他方のウイルスが吸着することができなくなる

*増殖に必要な成分が一方のウイルスに利用され
 他方のウイルスが利用できないので増殖できない

*一方のウイルスが
 他方の増殖を阻害する因子を放出する

*一方のウイルスの感染により
 抗ウイルス作用があるインターフェロンが産生され
 その作用で他方のウイルスの増殖が抑制される

といった機序が想定されています

しかし
これらの多くはあくまでin vitroで起こることで
実際にヒトの体内で起こっているかは定かではありません

逆に ヒトの体内では
in vitroでは検討できない
ウイルス感染による自然免疫系の活性化などにより
あとから来るウイルスの感染が抑制される可能性もあります

新型コロナウイルスと
インフルエンザや他のウイルスとの間で
実際にウイルス干渉現象が起こるか
は重要な問題で

新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの相互作用の推定図

いつかご紹介したように
新型コロナウイルスの重症例では
インターフェロンの産生が抑制されており
この新型コロナウイルスが持つ免疫から逃れる仕組みが
ウイルス干渉現象を起こさせない可能性もあります

ですから はっきりとしたことは解らないのが現状です


<新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの共感染は在りうるか?>

新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの共感染について
これまでの多くの症例報告や研究結果が報告されています

最も多いのが中国からの臨床研究で

1月の検討では
1001人のインフルエンザ陽性者のうち
新型コロナ陽性者は4人だけだった

250人の新型コロナウイルス患者の検討では
アデノウイルスなどの共感染は15.6%に認められ
入院期間が長くなっていたが
インフルエンザとの共感染はなかった

1~2月に行われた257人の新型コロナウイルス患者では
細菌感染は多かったが
インフルエンザの共感染はいなかった

といった報告が主で
このように
共感染の頻度は低いという結果が多いのですが

93人の新型コロナウイルス患者の検討で
47.3%がインフルA
2.2%がインフルBと共感染していて
共感染者は心血管系の合併症を起こしやすく
サイトカインストームを起こしやすいのではないか
という研究もあります


他の国からの報告では

アメリカで3月に
51人の新型コロナウイルス患者を対象に行われた検討では
インフルエンザAとの共感染は1人のみでした

また共感染の頻度は
ニューヨークでは2.1% カリフォルニアでは0.9%
と報告されています

アメリカからの共感染の報告

日本の新型コロナウイルス患者での検討では
インフルエンザとの共感染者は一人もいませんでした

日本からの共感染の報告

トルコでの検討では
共感染の頻度は0.54%でした

また 中国で1~4月に発表された多くの研究論文を
まとめて検討したメタアナリシスでは
3834人の新型コロナウイルス患者のなかで
インフルA陽性者は3%以下でした

このように 世界各国からの報告では
新型コロナウイルスとインフルエンザの共感染は
在り得るものの
その頻度は非常に低いようです


<共感染は病状にどのような影響を及ぼすか?>

たとえ両方のウイルスに感染しても
症状 予後 死亡率などは
新型コロナウイルス単独感染と変わらない

という報告が多いのですが

共感染の病状への影響は少ないことを説明する図

新型コロナウイルスとインフルエンザBに共感染すると
予後が悪くなる確率が増えるという報告もあります

予後が悪くなる確率が増えることを示すグラフ
はっきりとした結論がでるには
もう少し症例数の積み重ねが必要と考えられます

 

高橋医院