では 新型コロナウイルス感染が猛威をふるう状況下で
インフルエンザワクチンの接種が
どうして推奨されているのでしょうか?

<インフルエンザワクチン接種の新型コロナウイルス感染への影響>

@インフルワエンザクチンの接種が推奨されています

WHOは 2020年8月18日に
今年はインフルエンザワクチンの予防接種を
積極的に受けるよう呼びかけ
ワクチンの接種を強く推奨しています

インフルエンザでは
新型コロナウイルスに感染した場合と似た症状が出るため
医師の診断が難しくなる恐れがあり
医療現場での混乱を少しでも抑えるために
インフルエンザにかからないように
ワクチンを接種してくださいという理由からです

@インフルエンザワクチンの接種が
 新型コロナウイルスの感染や死亡 重症化リスクに及ぼす影響

インフルのワクチンを接種すると
新型コロナウイルス感染の予後が良くなるという成績
世界各国から相次いで報告されています

アメリカからは
高齢者のインフルエンザワクチンの予防接種率が高い地域では
*新型コロナウイルス感染症による死亡リスクが低く
*予防接種率が10%上昇するごとに死亡率は28%低下している
という成績が報告されました

アメリカからの報告をまとめたグラフ


ブラジルからは
新型コロナウイルス感染症にかかった
93,000人を対象に行われた研究で
インフルエンザワクチンの予防接種を受けている人は受けていなかった人に比べ
*ICUに入るリスクが8%低く
*人工呼吸器などを受けるリスクが18%低く
*死亡のリスクも17%低かった
ことが報告され

ブラジルからの報告をまとめたグラフ


新型コロナウイルス感染症を発症してから
インフルエンザワクチンの予防接種を受けた患者さんでも
新型コロナウイルス感染症による死亡リスクは低下していました


一方 イタリアからは
インフルエンザや肺炎球菌のワクチン予防接種により
新型コロナウイルス感染率が低下するという
興味深い成績が報告されています

イタリアからの報告をまとめたグラフ


さらに アメリカでもヨーロッパでも
高齢者では 過去のインフルワクチン接種率と
新型コロナウイルスの感染率 死亡率 重症化率に
負の相関があり
インフルエンザワクチンの有効性が示されています

このように そのメカニズムはわかりませんが
インフルエンザワクチンの接種が
新型コロナウイルス感染の予後を良くする可能性が示唆され
インフルのワクチンの接種が強く推奨されている次第です


<これからのインフルエンザ流行に備え何をすべきか?>

以前にご紹介したように
6~9月に冬だった南半球では
例年に比べてインフルエンザの流行が激減していました

南半球でのインフルエンザの流行の激減を伝える記事

新型コロナウイルスに対する不安から
実際にインフルエンザに感染していた患者さんが
医療機関への受診を控えたために
統計上は患者数が減少していた可能性もありますが

新型コロナウイルス感染対策として
多くの人が行った
マスク着用 手洗い 消毒の励行が
インフルエンザ流行予防に功を奏したと推測されています

新型コロナウイルス感染対策として行われたことを示す図

ですから これからも日常的な習慣として
ソーシャルディスタンスを保ち 3密を避け
マスク着用 手洗い 消毒を励行していけば
インフルエンザの流行を阻止できる可能性が大きいと思われます

インフルエンザ対策をまとめた図


<当院の対策>

では インフルエンザ流行の季節を目の前にして
医療機関はどのような対策を講じるべきなのでしょう?

まず 上述した理由から
インフルエンザワクチンの接種を広く呼びかけます

既にご紹介したように
国も今年はこれまでに最多のワクチン供給を
準備していますから 早目に予約してください


一方 発熱などの症状がある患者さんを
どのようにして診断 治療するかも大きなポイントです

新型コロナウイルスとインフルエンザの鑑別をまとめた図表

インフルエンザと診断されれば
適切な抗インフルエンザ薬で治療できますし
患者さんの隔離に関しても
新型コロナウイルスほど神経質になる必要もありません

また インフルエンザの診断は
より早期に行う必要がありますから
インフルが疑われる場合には
迅速にインフルエンザの抗原検査が必要です


一方 インフルエンザと診断されなかったら
あるいは診断されても
新型コロナウイルス感染の可能性は否定できませんから
こちらの診断も重要です

また 突然の発熱などの症状がなく
周囲に新型コロナの感染者がいたりする場合は
新型コロナウイルスが疑われるので 検査が必要になりますが

検査の緊急性は
インフルエンザより緩やかで良いと思います


日本感染症学会は対策として
このようなフローチャートでの
インフルエンザと新型コロナの検査を推奨しています

感染症学会が示した検査の手順 フローチャート

患者さんの症状
周囲での新型コロナウイルス感染の状況などから
どちらの検査を先に行うか判断すべきと
指針を出されていますが
現実的には 両方の検査を行うべきかもしれません

当院も対策を検討中ですが
インフルや新型コロナウイルスが疑われる患者さんには

*予約制で 定められた時間帯に来院いただき
 (発熱・インフル・コロナ枠を設定しました)

*別室で アクリル板で遮蔽された状況下で
 まず鼻咽腔検体を採取してインフルエンザの検査を行い
 (医療者の感染防御も大切ですから)

*同時に唾液を用いた新型コロナウイルスのPCR検査を行う

といった手順で診断を進めようと準備しています
既に遮断用のアクリル板も発注しました


また 鼻咽腔検体を用いた新型コロナウイルスの抗原検査は
短時間で結果が出るので便利ですが

新型コロナウイルスの抗原検査の概略図

PCR検査と比べて信頼性が劣る可能性があるので
だったら判定に少し時間がかかっても
唾液のPCR検査を行った方が良いかもしれないと考え
検討中です

 

高橋医院