肥満により 
インスリン抵抗性が惹起されて
肝細胞内に中性脂肪が蓄積して
NAFLになることを説明しましたが

ここに 新たな要因が加わることにより
炎症や線維化が生じてNASHになる 

と考えられています

<酸化ストレス>

当初は この要因の正体 
すなわちセカンドヒット
酸化ストレスとされていました

前回 説明したように 
NAFLの状態では
ミトコンドリアからの活性酸素種(ROS)の産生が
増加します

また

*鉄沈着(内臓脂肪蓄積と相関する)

*脂質過酸化

*ペルオキシゾームでの脂肪酸β酸化

などによってもROSが産生されます

さらに 腸管由来のエンドトキシンにより
肝臓内のクッパー細胞や 
線維化を促進する星細胞が活性化されて
それらの細胞もROSを産生します

肝内で亢進したROS産生が線維化を促進することを解説する図

こうした 
さまざまな機序で誘導される酸化ストレスにより
肝臓内で線維化が進んで 
その結果 NASHになる

nashpatho10

これが 
最初の頃に推定されていたTwo hit theoryです

*インスリン抵抗性の状態に
 
*酸化ストレスが
 セカンドヒットとして加わり

NASHの病態が形成される

しかし最近は 
セカンドヒットには
酸化ストレスだけでなく 
さまざまな要因が関与すると考えられ

Multiple parallel hit hypothesisが

推定されています

NASHの病態形成に関わるさまざまな因子をまとめた図

<NASHの病態形成に関わると考えられるさまざまな要因>

さまざまな要因には

*小胞体ストレス

*悪玉アディポカイン

*腸内細菌叢の変化

*オートファジーの異常

*飽和脂肪酸による炎症の惹起

などが 候補として考えられています


NASHの病態形成に関わるさまざまな因子


@小胞体ストレス

飽和脂肪酸 高インスリン血症 
慢性炎症 酸化ストレスなどで
誘導される現象ですが

ループを形成するようにして 
酸化ストレスを増大させ

肝内での脂肪酸合成促進 
VLDL産生抑制により
中性脂肪の蓄積
も促進します

@悪玉アディポカイン
炎症を促進し 
インスリン抵抗性も誘導します

@腸内細菌叢の変化により

脂肪酸合成が促進され
免疫系を活性化させることで炎症が生じます

オートファジー

飢餓状態になったときに
細胞を壊して
アミノ酸などをエネルギーに用いる反応ですが

この失調により
肝細胞内に脂肪滴が蓄積したり

ミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)の異常により
酸化ストレスが増大すると考えられています


@遊離脂肪酸

インスリン抵抗性で増加した
血中の遊離脂肪酸
CYP2E1(長鎖脂肪酸の酸化に関与する酵素)の
発現亢進により
ROSを産生させ

肝臓 骨格筋 膵臓などでの
異所性脂肪蓄積を誘導し
各組織でのインスリン抵抗性を惹起します

異所性脂肪蓄積については また詳しく説明します

さらに飽和脂肪酸は
TLR4という
細菌成分を認識して免疫反応を活性化する受容体に結合し

それを活性化して炎症を惹起するとともに
酸化ストレス 小胞体ストレスを誘導し
インスリン抵抗性も誘導します

TLR4を介して炎症が誘導される機序の解説図


このように
最初は酸化ストレスだけと考えられていた
セカンドヒットには

さまざまな因子が関与していることが明らかにされ
NASHの病態形成は
かなり複雑であることが判明してきています

*小胞体ストレス

*オートファジー

*脂肪酸がリガンドしてTLR4を活性化して
 炎症を惹起する

*腸内細菌叢の変化

こうした現象は
細胞生物学や免疫学の最先端のトピックで
次々と新たな事実が見出されています

腸内細菌叢については
既に解説しましたが

小胞体ストレス
オートファジー
TLRなどについても

いずれ詳しく説明したいと思います

こうした研究成果を基に
NASHの病態がより詳細に解明され
新たな治療薬の開発につながることが期待されます


高橋医院