NAFLDの病態生理・2
肥満により インスリン抵抗性が惹起されて 肝細胞内に中性脂肪が蓄積して NAFLになることを説明しましたが ここに 新たな要因が加わることにより 炎症や線維化が生じてNASHになる と考えられています <酸化ストレス> 当初は この要因の正体 すなわちセカンドヒットは 酸化ストレスとされていました 前回 説明したように NAFLの状態では ミトコンドリアからの活性酸素種(ROS)の産生が 増加します また *鉄沈着(内臓脂肪蓄積と相関する) *脂質過酸化 *ペルオキシゾームでの脂肪酸β酸化 などによってもROSが産生されます さらに 腸管由来のエンドトキシンにより 肝臓内のクッパー細胞や 線維化を促進する星細胞が活性化されて それらの細胞もROSを産生します こうした さまざまな機序で誘導される酸化ストレスにより 肝臓内で線維化が進んで その結果 NASHになる これが 最初の頃に推定されていたTwo hit theoryです *インスリン抵抗性の状態に *酸化ストレスが セカンドヒットとして加わり NASHの病態が形成される しかし最近は セカンドヒットには 酸化ストレスだけでなく さまざまな要因が関与すると考えられ Multiple parallel hit hypothesisが 推定されています <NASHの病態形成に関わると考えられるさまざまな要因> さまざまな要因には *小胞体ストレス *悪玉アディポカイン *腸内細菌叢の変化 *オートファジーの異常 *飽和脂肪酸による炎症の惹起 などが 候補として考えられています @小胞体ストレス 飽和脂肪酸 高インスリン血症 慢性炎症 酸化ストレスなどで 誘導される現象ですが ループを形成するようにして 酸化ストレスを増大させ 肝内での脂肪酸合成促進 VLDL産生抑制により 中性脂肪の蓄積 も促進します @悪玉アディポカインは 炎症を促進し インスリン抵抗性も誘導します @腸内細菌叢の変化により 脂肪酸合成が促進され 免疫系を活性化させることで炎症が生じます @オートファジーは 飢餓状態になったときに 細胞を壊して アミノ酸などをエネルギーに用いる反応ですが この失調により 肝細胞内に脂肪滴が蓄積したり ミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)の異常により 酸化ストレスが増大すると考えられています @遊離脂肪酸 インスリン抵抗性で増加した 血中の遊離脂肪酸は CYP2E1(長鎖脂肪酸の酸化に関与する酵素)の 発現亢進により ROSを産生させ 肝臓 骨格筋 膵臓などでの 異所性脂肪蓄積を誘導し 各組織でのインスリン抵抗性を惹起します 異所性脂肪蓄積については また詳しく説明します さらに飽和脂肪酸は TLR4という 細菌成分を認識して免疫反応を活性化する受容体に結合し それを活性化して炎症を惹起するとともに 酸化ストレス 小胞体ストレスを誘導し インスリン抵抗性も誘導します このように 最初は酸化ストレスだけと考えられていた セカンドヒットには さまざまな因子が関与していることが明らかにされ NASHの病態形成は かなり複雑であることが判明してきています *小胞体ストレス *オートファジー *脂肪酸がリガンドしてTLR4を活性化して 炎症を惹起する *腸内細菌叢の変化 こうした現象は 細胞生物学や免疫学の最先端のトピックで 次々と新たな事実が見出されています 腸内細菌叢については 既に解説しましたが 小胞体ストレス オートファジー TLRなどについても いずれ詳しく説明したいと思います こうした研究成果を基に NASHの病態がより詳細に解明され 新たな治療薬の開発につながることが期待されます
高橋医院