ミトコンドリアでは
脱共役 という
興味深い現象も起こります

ヒトの体内では
エネルギーの摂取と消費が 
連動して自律的に調節されています

食べる量が増えて
栄養素がたくさん摂取され 
エネルギーが溜まってくると

それに対応するように 
エネルギー消費が増加して
エネルギーの過剰が解消されますし

絶食下では 
エネルギー消費が減少して 
栄養を備蓄する

<脱共役によりエネルギーが自律的に消費される>

この自律反応的なエネルギー消費の増加は

ミトコンドリアでおこる 
脱共役 という現象に担われています


脱共役は 
ミトコンドリア内膜に存在する
脱共役タンパク質(UCP)
によりなされます

UCP1の解説図


<UCP1が脱共役を起こす>

UCP?

あれ どこかで読んだことがあるぞ
と思われる読み手の方がおられたら
あなたはつまらないブログの読み過ぎです?(笑)

そう 去年3月 
倹約遺伝子の話題を紹介したときに
UCP1に特定の遺伝子多型があると 
太りやすくなることを解説しましたが

あのUCP1です

UCPは 
ミトコンドリアの電子伝達系で出来る
プロトン濃度勾配を
瞬時にあっという間に解消させてしまいます

UCP が活性化されると
プロトンはATP合成酵素を通らず 
直接マトリックスへ戻されます

ucp1による脱共役のメカニズムを示した図

上図右側の赤で示された矢印が 
脱共役・uncouplingです

ですから 
ATPは当然作られず
プロトン濃度勾配にためられた
膨大な電子的エネルギーは

直接 熱へと変換されて 
散逸し消費されます

熱の一部は 
体温の保持にも利用されます


UCPの代表選手であるUCP1
褐色脂肪細胞に大量に存在するミトコンドリアに
特異的に発現しており

褐色脂肪細胞は
このUCP1の脱共役作用により
大量のエネルギーを熱として放出し
それにより肥満の解消に貢献しています

いわば 
エネルギーを
瞬時に多量に放電しているわけですね

褐色脂肪細胞に存在するUCP-1の働きを示す図

<UCP1による脱共役が上手くいかないとデブになる>
 
このUCP1による放電が上手くいかないと 
デブになります

肥満動物では 
UCP1 の機能が低下していますし

多食しても肥満しない動物では
UCP1 が増加しています

また 以前に解説したように
日本人の25%は 
UCP1の倹約型の遺伝子多型を有していて

そうしたヒトはUCP1の働きが悪いので 
脱共役による熱放出が抑制され
皮下脂肪がたまりやすくなり
下半身デブの洋ナシ型肥満体型になりやすい

日本人に多いUCP-1も含めた倹約遺伝子をまとめた図

UCP1は 
βアドレナリン受容体の刺激や 
交感神経の活動亢進により活性化されます

寒さや多食で交感神経の活動が亢進すると
UCP1が活性化されるので
体内でミトコンドリアから熱が放出されて 
体が暖かくなるのです

また UCP1の活性化により 
細胞内の中性脂肪から脂肪酸が遊離し
エネルギー源として使用されるので 
肥満が解消されるわけです

体内にどうしてこうした熱放出機構が
備わっているかというと
おそらく 
寒さ対策のためだったのではないでしょうか?

昔の環境は 今よりずっと寒かったから
エネルギーを節約して
飢餓に備えるのと同じくらい

体内に熱を放出して
体温を維持することが
ヒトにとって重要なことだったと思われます

でも今の世は 飽食だし 
温暖化であまり寒くもない

だから 昔の体質を保持していると

食物からのエネルギーは
溜まる一方だし

熱の放散によるエネルギー放出は
減る一方で

ホントに 太りやすい 
厄介な外部環境です、、、


<UCP1の発現を制御する因子>

UCP1遺伝子は 
βアドレナリン受容体の刺激のみならず
甲状腺ホルモン 
ビタミンA代謝物のレチノイン酸
でも発現増強しますが

この段階に関与しているのが
骨格筋の解説で登場した 
PGC-1という転写補助因子で

PGC-1の働きにより
UCP1の遺伝子発現増強のみならず
ミトコンドリアの増生や 
褐色脂肪細胞の増加も誘導されます

PGC-1によるUCP1の発現制御を示す図

PGC-1は
運動により骨格筋内でミトコンドリアが増える話題のときにも
登場しました


このようにミトコンドリアは 
ATPを作るだけでなく

栄養素が過剰の場合には
UCPの働きにより
脱共役で瞬時にエネルギーを放出して

結果的に 
エネルギー過剰が解消され 
肥満が抑制されるという
重要な働きも兼ね備えています

ミトコンドリアにおけるATP産生と熱産生の関連を示す図

水力発電のダムも
通常は高いところに溜めた水を落下させて
エネルギーを作りますが

水位が過剰になると 
エネルギーを作らず放水して 
安定性を保ちます

そういう意味では 
ミトコンドリアは
ホントに水力発電ダムのような存在に
思えてきます

ヒトの体というのは
実にうまくできているもので 
感心してしまいます
高橋医院