機能性胃腸障害と腸内細菌叢
腸内細菌叢について解説したとき 糖尿病などと腸内細菌叢プロファイルの変化 の関連について説明しましたが 腸内細菌叢の変化は 機能性胃腸障害の病態にも 関与していると推定されています <ストレスによる腸内細菌叢の変化> まず ストレスにより 腸内細菌叢プロファイルが変化します ストレスは 有害菌の増加 有益菌の減少 方向に作用するとされ ストレス時に 消化管局所で放出されるカテコラミンが 有害菌を増やすと想定されています <腸内細菌叢がストレス反応を修飾する> 一方 変化した腸内細菌叢プロファイルは 視床下部―下垂体―副腎系による ストレス応答の反応性に 影響を及ぼします 腸内細菌叢が 脳に影響を及ぼす機序は いくつか想定されています まず 腸内細菌が 腸管の神経細胞を活性化させます 消化管から脳に情報を伝達する 腸管の神経細胞には 細菌成分を認識して細胞機能に影響を及ぼす TLR4という受容体が発現していて 腸管内に TLR4に認識されるLPSという 細菌成分を注入すると 腸管の神経叢が活性化されることが 明らかにされています また 腸内細菌は 腸管でのセロトニン産生を促します 腸内細菌の嫌気性菌が 食物中の繊維性成分を分解してできる短鎖脂肪酸は 腸管のセロトニン産生性EC細胞を刺激し セロトニン産生を促します セロトニンは前回説明したように 消化管の運動を促進し さらに迷走神経を介して 脳の延髄に情報を伝達します EC細胞は 複数の種類のTLRを発現していますから さまざまな種類の腸内細菌の成分が EC細胞を刺激して セロトニンを分泌させる可能性も 示唆されています このように *腸内細菌成分そのもの や *腸内細菌により分解された代謝産物 が 消化管から脳への情報伝達に影響を及ぼしたり 消化管局所でセロトニン分泌を促して 消化管運動にも影響を及ぼすと考えられます 腸内細菌が産生に関与する 脳への情報伝達に影響を及ぼす物質(代謝産物)として *短鎖脂肪酸 *GABA ポリアミンなどの生理活性物質 が候補として考えられています また腸内細菌叢プロファイルは 腸管から脳への情報伝達のみならず さまざまな中枢機能や行動に影響するとされていて 腸内細菌により変化する ホルモン産生や免疫反応などが関与する と推定されています 実際に 過敏性腸症候群の患者さんと 健康な方を比較すると 腸内細菌叢のプロファイルが異なることが 報告されています しかし 過敏性腸症候群の患者さんで どのような腸内細菌が増えているか 減っているかは 報告によって異なり 病気に特異的に増減している細菌は 未だに同定されていません 一方 ビフィズス菌などのプロバイオテイクスは 腸内細菌叢のプロファイルを是正する働きを 有していますが 機能性胃腸障害の患者さんに投与すると 消化管症状のみならず うつや不安障害の改善もみられることが報告され 広く治療に用いられています 以上より 機能性胃腸障害の病態形成への 腸内細菌叢プロファイルの変化の関与が 推定され 一部の症例で プロバイオテイクスの有効性も認められることで そうした推定が裏付けられると考えられます 今後は 疾患特異的に増減している腸内細菌の 種類が同定され 病態がより詳細に解明されるとともに 症状を緩和するだけでない 根本的な治療法が開発されることを 期待したいと思います
高橋医院