旅するオルガン奏者
さて 番組では 鈴木さんが 中部ドイツのザクセン地方を中心に 旅してまわられます ザクセンは 旧東ドイツの地域で ドレスデンやライプチヒなどの大きな工業都市が 東ドイツ経済を支えていました パイプオルガンは動かせない その土地 その教会のために作られ その地の文化に馴染んだものだから 移動させたら全く音色が変わってしまう だから パイプオルガンの奏者は 各地の旅を続け その土地その土地で演奏して 感動しながら旅を続けていくのが 理想的なパイプオルガンの楽しみ方です 番組冒頭に 鈴 木さんがそう語られていましたが うーん なんだか優雅というか ちょっと浮世離れしているというか でも 日々の精進の果てに そうした楽しみ方をすることが 出来るようになった鈴木さんを とても羨ましく思いました まず 最初に訪れたのが ライプチヒ近郊のフライベルグ バッハの時代のもっとも 有名なオルガン制作者ジルバーマンが 1714年に作製した 聖マリア大聖堂のオルガンを奏でます このパイプオルガンは ジルバーマンが修行した フランスの優雅な香りがあり 重厚で明るく 銀のような響きがあり きつくなく 耳に心地よく やわらかく 低音もよく響く 輝かしい音色だそうです 鈴木さんは じわっと攻めると 輝かしく鳴る と評されていました なるほどねえ ここのオルガンでは 自由でみずみずしい曲想の 幻想曲 ト長調 変奏曲の多い壮大な物語の バッサカリアとフーガ ハ短調 などを鈴木さんは弾かれていました 次に訪れたのが アルテンブルク トローストという製作者が 1739年につくったパイプオルガンで 外観の装飾が 象眼細工 象牙などをふんだんに使っていて ぜいたくできらびやかなのが印象的です トローストは シルバーマンとは対照的な とても先進的な考えの持ち主で 実験的なストップや 新しい構造をたくさん使った 近代的なオルガンを創り上げました 力強いシルバーマンのオルガンに比べ 室内楽のように 繊細で 弦楽器的な響きを持っていて 手鍵盤の数も多く 弦楽器系のストップが沢山あるので どれを選ぶかが オルガン奏者の腕の見せ所だそうです そして だからこそ バッハの音楽にとても向いているそうです でも 鍵盤は重いし 粘る 叩いても音が出なくて 弾きにくいのだそうです ひと口にパイプオルガンといっても オルガンそれぞれによって いろいろな個性があるのですね とても印象的でした そして 最後に訪れたのが ナウムブルクの聖ヴェンツェル教会 ジルバーマンの弟子で この教会のオルガン製作をジルバーマンと競った ヒルデブラントという製作者が 1746年に完成したパイプオルガンです 軟らかく豊潤な響き 室内楽的な音色がでるオルガンで シルバーマンの力強さ トローストの繊細さを兼ね備えていて 規模が大きく 無限の可能性を秘めている バッハの理想に 最も近かったのかもしれない と 鈴木さんは語られていました 実際 ヒルデブラントは バッハが活動したライプチヒで バッハのオルガンなどの調律をしていて バッハのお気に入りだったそうです 旅の終わりに 鈴木さんはこのオルガンで いちばん好きなバッハの作品で これまでに何百回も演奏されている 前奏曲とフーガ ホ短調 を弾かれました 弾かれている姿は とても集中されていて 充実していて とても楽しそうに見えました
高橋医院