ヒトはヒト 自分は自分?
NHKが放送した 「 欲望の資本主義」 という番組が 面白かったことを 以前にご紹介しましたが なんと あっという間に書籍化しました! 出版元はNHK出版でなく 東洋経済新報社なのだけど この番組の仕掛け人のプロデューサーの 丸山俊一さんという方が 対談録を中心にまとめられたようです はい 早速購入しました(笑) 番組では 資本主義の現在 成長は至上命題か? 利子の誕生 といったテーマについて アメリカのノーベル賞経済学者の ジョセフ・スティグリッツ チェコのエコノミスト トーマス・セドラチェック フランスの人口学者 エマニュエル・トッド ベンチャー投資家の スコット・スタンフォード 投資ストラテジストの ルチル・シャルマ といった 各界のバリバリの方々が それぞれコメントする構成でしたが この本では 中心となった スティグリッツ セドラチェック スタンフォード の3人のインタビューの内容が 詳細に掲載されていて 番組と書籍の両方を楽しむことにより 縦横の糸が交差する感じで面白い 丸山さん タイムリーな企画で 良いお仕事をされましたね 各人のインタビューの内容を読むと 番組を見ていたときには 把握しきれなかったことなどが より詳しく理解することが出来て とても興味深いのですが 個人的には 丸山さんのあとがきが いちばん面白かったです 欲望 がキーワードになることは これまでもさんざんコメントしてきましたが では 欲望とは何か? 書き手のこれまでのブログでは 問題提起はするものの 欲望というものについて 詰めきれていませんでした(苦笑) 丸山さんは 現代人の欲望について考えるとき フランス人のルネ・ジラールの 欲望の三角形 の概念 を持って来られます 人の欲望というものは 主体的なものでなく 往々にして他者の模倣であり 人が欲しいものを欲してしまう その時 他者は 同一の対象を欲望するライバルとなり 主体 他者 欲望の対象物の関係が 三角形を形成する なるほど あれが欲しい という欲望は 実は自分自身が 欲しがっているのではなくて ヒトさまが欲しいと思っているので 自分も欲しいと勘違いしている? そして インターネットやSNSなどにより すさまじい勢いで情報化が進む現代社会では この三角形が無限に増殖していて それが資本主義の原動力に なっているのかも? と指摘されます そして 欲望という感情の下には 羨望 嫉妬 貪欲 といった 結構ドロドロした情動が渦巻いていて 羨望は 怒りであり 対象物を奪い取るか 壊してしまう衝動が生まれる 嫉妬は 愛情が絡んだ二人の人間関係における争奪であり 貪欲は ヒトが必要とする以上のものを望む 激しくて飽くことを知らぬ 渇望である という 精神分析家のメラニー・クラインの分析を紹介します クラインは 羨望から生まれる破壊行為の本質は よいものほど壊そう壊そうとすることだ と見做し 人間が最も深いところに抱え込んでいる感情が 羨望である と 語っているそうです シェークスピアは 羨望や嫉妬に駆られている人は 緑の眼をしている と語りましたが 緑の眼はやがて 全身が緑の 怒りや破壊行為に 昇華するのでしょうか? この流れは なんとなく理解可能な気がします で 丸山さんは 現代のネット型大衆消費社会では 羨望が増強される傾向がある と指摘します そして 羨望が やはりネット社会で増えている 承認欲求の広がりと 相乗効果を見せると 危険な状況が生まれるのではないか? と危惧されます うーん 面白い ネットまみれになっている現代人の心の闇 その闇から生まれる ネット社会が内包する危険性を 鋭く突いていると思います でも 面白いのだけれど なんだかちょっと ペシミステイックに過ぎないかな? 人間の本質って そんなものなのでしょうか? 確かにヒトは 他者との関係のなかで生きているわけですし ネット社会では ヒトとの関係が希薄化しながら どんどん増大しているのも事実でしょうが でも 自分の欲望が そんなに他者に影響されているのかな? それと そんなに簡単に羨望が生まれ 承認要求と結びつくかな? 若くて分別がつかない頃は 確かにそういう傾向はあるかもしれないけれど 少なくとも いい大人は そんなことはないでしょう? と思うのですが どうなのかな? そして そういう欲望の捉え方って まさに番組でも問題視されていた グローバル資本主義的価値観が 生み出すもので それこそ資本主義を支える欲望のあり方も これからは変化していかないと いけないのでは? と思いました 結局 ヒトはヒト 自分は自分でしょう?(笑) そういう捉え方って 上っ面しか見ていなくて 深層をとらえていないのかな?(苦笑)
高橋医院