慢性炎症と老化
老化細胞が 生体内で老化細胞関連分泌因子を分泌することにより ヒトの体の老化が促進することを説明しましたが ここで注目されているのが 慢性炎症 です <慢性炎症とは?> 炎症反応というと 風邪や怪我などの際に生じ 短期間で収束する 急性の炎症が代表的ですが 最近注目されているのが 長期間にわたりジワジワと持続する慢性炎症です しかも 急性炎症は 痛み 発赤 腫れ 熱感といった 自覚症状をともないますが 慢性炎症は「隠れ炎症」とも呼ばれ 自覚症状がない 目に見えない形で持続する炎症なのです こうした隠れ炎症・慢性炎症が 加齢にともなって慢性化して それが生活習慣病などの原因になっているのではないか? という考え方が 最近のトレンドになっています <老化と慢性炎症> そして 老化にも この慢性炎症が関与していると考えられています というのも 老化した細胞が分泌するSASPが 慢性炎症の誘導に関与することが 明らかにされているからです *ヒトでは 加齢により血中の炎症性サイトカインが増加する *100 歳を超える長寿者は 炎症を抑制する遺伝型をもつ *老化促進マウスでは炎症が促進され 寿命が延長される老化抑制モデルマウスでは 炎症が抑制される これらの事実は 慢性炎症が老化を促進することを示唆しますし 以前に説明した 老化を促進する 錆び・酸化ストレス 焦げ・糖化ストレスは いずれも炎症を惹起します さらに 慢性炎症はテロメアの短縮を促進することも 明らかにされています こうしたことから 組織中に老化細胞が増加し 老化細胞関連分泌因子(SASP)分泌を介する 持続的炎症誘導が 慢性炎症のイニシエーションになっていて さらに 細胞老化は 慢性炎症で産生される炎症性サイトカインによっても 誘導されることから 細胞老化 → 慢性炎症誘導 → 細胞老化誘導 というポジティブフィードバックサイクル の存在が示唆されています そして *抗炎症薬である イブプロフェンやアスピリンの投与により 炎症が発生した組織での老化細胞の蓄積が阻止され 組織の再生能が回復すること *食事制限した長寿マウスでは 炎症が惹起されにくくなっていること なども明らかにされ 慢性炎症の抑制や改善により 老化が遅延する可能性も示唆されています <老化・慢性炎症・生活習慣病の繋がり> 一方 生活習慣病の病態形成に 慢性炎症が関与しますが 肥満 高血圧 糖尿病などの病態に関与する因子も 細胞老化を誘導することが示されています たとえば 高血圧の原因となる昇圧作用をもつアンジオテンシンⅡは 血管内皮細胞の老化を誘導しますし 糖尿病の病態に関わる インスリン/PI3K/Akt経路という 細胞内情報伝達経路の活性化も 血管内皮細胞の老化を促進します このように 生活習慣病では 細胞の老化が促進され それにより慢性炎症が惹起され さらに老化や生活習慣病が進展する可能性 があります また 偏った食生活 糖質 悪い脂質の摂り過ぎ 過度のアルコール摂取 肥満 過労 運動不足 睡眠不足といった 生活習慣病を引き起こす因子が 慢性炎症を誘導すること も明らかにされています ですから 細胞の老化を抑制したり 慢性炎症を改善させる薬物が 生活習慣病の新たな治療薬になる可能性を考え そうした視点からの研究が 精力的に行われています <慢性炎症が起こるメカニズム> 慢性炎症が誘導される機序の詳細は 未だ完全には明らかにされていませんが *細胞の老化が慢性炎症の誘導に関与し *慢性炎症が細胞老化を誘導する というループ形成が 生活習慣病などの病態に関与することが 明らかにされたことは 大変興味深いものです この分野での今後の研究の 更なる進展が期待されます
高橋医院