ルドンは 20代はじめに 
画家を目指してパリに出て修行しますが

画一的な 写実ばかりを重視する
トレーニングに馴染めず
失意のうちにボルドーに戻ります


そして故郷で 
ふたりの人物に大きな影響を受けました

そのひとりが 放浪の版画家 
ロドルフ・ブレスダン

ロドルフ・ブレスダンの肖像画

彼は自然描写が得意でしたが
目に見えない自然の神秘を描くことに熱心で

ロドルフ・ブレスダンが描いた自然描写

ルドンは彼から 
見えないものを見る創造力の大切さを
学んだそうです


もうひとりは 博覧強記の植物学者 
アルマン・クラヴォー

アルマン・クラヴォーの肖像画

ルドンは彼のもとで
顕微鏡を覗かせてもらい 
未知の生命の世界を知りました

そして 目に見えない生命との出会いに 
大きな刺激を受け
自然が有する不思議さのようなものを描く
きっかけとなりました


いわば サイエンスとアートとの
ポジティブな関わりとも言えます


NHKの番組で解説していた方が

ルドンの自然観は
西欧的な人間中心の自然との関わり方ではなく
日本人の感性に近いものがある

と 興味深いことを語っておられました


またクラヴォーは 
植物学だけでなく 芸術や文学にも造詣が深く
ルドンに ボードレールの詩集 惡の華 を
発刊直後に読ませたりもしました

ボードレールの詩集 惡の華の表紙

彼はルドンの 
さまざまな領域への関心を導いたのです

実際 ルドンの 
得体の知れない怪物のようなものを描いた版画には
当時の科学の最先端だった 
ダーウインの進化論 をもじったのか
「起源」というタイトルがつけられています

「起源」というタイトルの作品

そして39歳で 
石版画集「夢の中で」で 
やっと画壇にデビューします

「夢の中で」の表紙

それは 
色彩を一切使わない モノクロの世界でした

彼の前半生は 
不思議で 怪奇的な作品が多く
独特のモノトーン モノクロの世界を
表現していたので

黒の時代 と呼ばれています

黒の時代の作品

暗闇に浮かぶ目玉

暗闇に浮かぶ目玉

ヒトの頭を付けた植物

ヒトの頭を付けた植物 

黒い怪物 昆虫

黒い怪物 昆虫 

水のなかでうごめく 原始生命のようなもの

そんな奇妙なモチーフが 
好んで描かれました

不思議な ファンタスティックなイメージ
内面的で 引き篭もった 
スピリチュアルなイメージ

まさに 自然の神秘 生命力 見えないモノ を
描こうとしていたようです

黒は ルドンにとって とても重要な色でした


彼は 黒を
最も本質的な色彩で 
優れた精神の代理人と見做し

見えないものを表現するための色 
心や精神を表す色
と考えていたそうです

ごまかしがきかない 
誠実な気持ちの表れとしての黒

色彩は 
見えるものを表現できるが 
心や精神は表せないから
色彩に引きずられてはならない

とも語っていたそうです

気に入った作品

この作品 気に入りました!

うーん 黒というと
色々な絵の具を混ぜ合わせるとできてしまう色 
といったイメージで

黒という色について 
そんな風に考えたことはなかったので
かなりびっくりしましたが

なかなかの奥深さを 有しているのですね!

黒猫のヒトミ

さて この時代のルドンの作品は 
ごく一部の人々にしか評価されず

しかもそれらは 芸術としての評価でなく
オカルト的な評価に過ぎませんでした

それでも 
彼の作品を芸術的に高く評価する人もいて

例えば ポスト印象派のポール・ゴーガンは

ルドンの描くものには 
本質的に人間的なものがあると評価し
心の声が聞こえてくる 生命の輝きがある 

と 讃えたそうです


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