NAFLDは生活習慣病だと 
しつこく解説してきましたが

他の生活習慣病と大きく異なる点があります

それは 
高血圧 脂質異常症 糖尿病などと異なり
有効な治療薬がない 
という相違点なのです

残念ながら
この薬を飲めばNAFLDは良くなりますよという特効薬が
現時点では存在しないのです

困ったものです

<NAFLD治療の特効薬?>

しかし良い薬はなくても 
NAFLDには 効果100%の治療法があります

それは 痩せることです

生活習慣の改善により
体重が5%減れば 
病因のインスリン抵抗性が改善
10%減れば 
線維化すらも改善する
と報告されています


NASHは減量すれば良くなることを強調するスライド

生活習慣の改善は 
食生活の見直しが中心になりますが
運動療法を併用すると 
より改善するという報告もあります

週に3~4回 
30~60分持続した有酸素運動を 
4~12週継続すると

体重減少がそれほどでもなくても 
肝臓の脂肪化が改善したというのです
(下のグラフの真ん中のAerobic 黒が運動前 グレーが運動後)

有酸素運動のNASHへの有効性を示すグラフ

確かに 
NAFLDの病態の中心は 
肝臓における脂質の蓄積ですから

脂質を燃やす有酸素運動(Aerobic)が有効なのは
納得できます

<糖尿病 脂質異常症の薬>

また NAFLDそのものを良くする薬はなくても

他の生活習慣病を合併している場合は 
その病気の薬を服用することで
NAFLDの改善が見られます

@ピオグリタゾン

糖尿病を合併している場合は
インスリン抵抗性を改善する作用を有する
糖尿病治療薬の
チアゾリジン誘導体:ピオグリタゾンを服用すると

肝機能(ALT値)が改善

ピオグリタゾンによるALTの改善を示すグラフ

さらに 
肝内の炎症や線維化の改善も認められます

ピオグリタゾンによる肝内炎症改善を示すグラフ
ピオグリタゾンによる肝内線維化改善を示すグラフ

ですから 
糖尿病合併NAFLDには ピオグリタゾンの投与により
まさに 
ひとつぶで二度おいしい効果を狙う価値があります

但し 服用を中止すると効果は消退してしまうので 
長期投与が必要で
それにともなう体重増加 心不全 骨折 膀胱癌等には
注意しなければなりません

@HMG-CoA還元酵素阻害薬

脂質異常症を合併している場合には 
脂質異常症の治療に用いられる
HMG-CoA還元酵素阻害薬
コレステロールトランスポーター阻害剤を投与すると

いずれも肝機能の改善が認められ

脂質異常症の治療薬によるALTの改善を示すグラフ

コレステロールトランスポーター阻害剤では
NASHの組織学的活動性を改善すると
報告されています

<ビタミンE製剤>

生活習慣病の薬以外で
唯一NAFLDに効果があるとされているのが

ビタミンE製剤αトコフェノールです

次回説明しますが 
NAFLDの病態形成には
インスリン抵抗性に加え 
酸化ストレスが関与しているとされています

ビタミンEは 
抗酸化作用を有するので
糖尿病を合併していないNAFLDの方の
第一選択となる治療薬

肝機能の改善に加え

ピタミンE製剤によるALTの改善を示すグラフ

肝内の脂肪化の有意な改善を認め
線維化の改善も見られたとする
報告もあります

ピタミンE製剤による組織学的改善を示すグラフ

但し 有効な症例と 無効な症例があり
全てのNAFLDの方に効果を示すわけではないのが
問題点です

当院でも 
ビタミンE治療を行っているNAFLD患者さんが何人もおられ
一部の方ではALT値の改善が見られています

<オベチコール酸(OCA)>

一方 未だ開発段階ですが
NAFLDの治療薬として有望視されているのが

合成胆汁酸アナログの 
オベチコール酸(OCA)です

OCAの説明図

FXRという
胆汁酸をリガンドとする核内受容体を
刺激する作用がとても強く

NAFLDの患者さんに投与すると
肝機能の改善 
肝内線維化の減少 
インスリン抵抗性の改善
が見られました

これまでに 
肝機能の改善を認めた薬はいくつかありましたが
有意な線維化の改善が認められた薬は 
OCAが初めてです

慢性肝疾患で線維化の改善が見られるのは
本当に凄いことなので 
このデータには驚かされました

OCAによる組織学的改善を示すグラフ

OCAがFXRを刺激して発現させる

*脂肪蓄積改善 
*抗炎症作用 
*線維化抑制 
*糖代謝異常改善 

といった作用により
NAFLDの病態が改善すると考えられています

OCAの作用機序を解説する図

但し 
掻痒感と悪玉(LDL)コレステロールの増加といった
気になる副作用も指摘されています


ちなみに 糖尿病専門医さんからの
プレリミナリーな情報によると

糖尿病治療の世界を変えたGLP-1アナログ
(特にリラグルチド)
NAFLD・NASHに対する治療効果があるそうで

糖代謝の改善に加え
体重減少 炎症性サイトカインの減少をともない

肝機能の改善のみならず 
肝内脂肪化の改善もみられるそうで

OCAと肩を並べる存在になるのか 
要注目です!

このように 
現在のところ
NAFLDに有効な治療薬は見出されていませんが

OCAは有力な候補で
近い将来 
NAFLD治療の第一選択薬となる可能性があり楽しみです

日本でも現在 
OCAの臨床治験が進行中で
早ければ2018年にも
健康保険で使用できるようになるかもしれません

しかし それまでは
いちばん確実で しかしいちばん難しい 
減量にいそしむのが
地道で確実な治療法であることは 
間違いないようです

NAFLDの治療中の皆さん 頑張りましょう!
高橋医院