日本人の命の格差は拡大している
ここで少し視点を変えて ハーバード大学公衆衛生院の イチロー・カワチ先生が登場します カワチ先生は ご専門の社会疫学の立場から 日本の健康格差の現状について分析され 日本人の命の格差は拡大している と警鐘を鳴らされます 日本ではバブル崩壊後に 寿命の伸び率が頭打ちになっていて やがてヨーロッパ諸国に 抜かれてしまうかもしれない それは 健康格差が拡大しているからだ と指摘されます 健康格差が自己責任によるか? という質問に対しては 食生活 運動などの生活習慣は さまざまな社会的決定要因 環境の影響が 入りまじって醸成されるので 当然 社会的要因が大きく影響する それを 自己責任で生活習慣を改善しろというのは無理で そうした場合は 行政が手助けしないといけない 病気の改善を 個人の努力だけに追い求める社会では 格差をより大きくしてしまう と主張されます カワチ先生が研究されているアメリカでは 「人の置かれている環境が 健康に大きな影響を与える」 ことが明らかになるにつれ 全てが自己責任とは言い切れないと 考えられ始めているとのこと そして 行政が行うべき取り組みの仕方として 特に健康を意識しなくても 自然と健康に良い方向に人を導いてくれる 社会の仕組みを作るべき と提唱されます 前にご紹介した 行動経済学のナッジを利用して 食生活を取り巻く環境を少しずつ変えていく たとえば 食品メーカーが包装を小分けに変え 食器メーカーが器のサイズを小さくすれば 食べ過ぎを減らすことができる そうした工夫を 積み重ねていくべきだと言われます では 健康格差の解消のために 日本の行政がなすべきことは どんなことなのでしょう? まずは雇用問題の解決です これまで紹介してきたように 健康格差には 雇用の問題が大きく響いていますから 非正規雇用者の平等な賃金 年金の交付などを 推し進めていくことが肝要であると そして ソーシャルキャピタルの再建の重要性を 指摘されます ソーシャルキャピタルは 日本社会が持つ誇りだったのに 今の日本では減少していて それが健康格差の拡大を生んでいると 向こう三軒両隣 お互い様 情けは人のためならず といった 人と人との絆が薄くなり 日本が持つ素晴らしい側面が 失われつつある 社会的格差が広がると 社会との摩擦 人と人との軋轢が生じて ソーシャルキャピタルがすり減って 社会全体が利己的になり 摩擦が増え 衝突が起きる 助け合い 連帯感の意識は 健康格差を生じさせないために重要で それが実現できるためには 平等な社会を作らないといけない そうした意識を持つことが大切で 現在の状況が定常だと考えるようになると 貧困や格差の問題に取り組むモチベーションが 下がってしまう そんな風に指摘されます また 生後3ヶ月から3歳までの早期教育の 健康管理における重要性 を強調されます 早期教育は 忍耐力 自己統制力を育み 生活習慣の改善をするポテンシャリテイを 身につけることができる 健康に良い基本的な生活が体に染み込み 健康に良くないものに 手を出さない力につながる 残念なことに 今の日本では 早期教育の教育格差が最も顕著で 将来の健康格差拡大の不安がとても大きい 早期教育は 親だけでは実現不可能なので 政府が介入すべき問題である 要は 個人でなく社会という意識が大切で 健康格差の解消には 個人の責任に押し付けるのではなく 社会全体のシステムを変えなければならない 多くの人は 何が健康に悪いか自覚しているが ストレスなど それを止められない環境に置かれている 啓蒙や知識といった”上から目線”では 原因を生み出している根本問題を なかなか改善できないので 個人の努力だけでなく 政府 企業を含めた社会全体が協力しないと 問題は解決できない 経済成長の本来の目的は 国民の健康 幸福感を高めるという 根本に立ち戻るべきだと カワチ先生は論をまとめられます
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