新型コロナ・糖尿病はなぜリスク因子なのか?
当院には 糖尿病の患者さんが たくさんいらしていますが 「糖尿病だと 新型コロナに感染すると危ないのですか?」 と真剣に心配されている方が少なくありません そうした患者さんには 「治療により血糖値がきちんとコントロールされていれば 糖尿病でも心配ありませんよ」 とお答えしていますが そのあたりの詳細をご説明しようと思います 感染が流行し始めた当初から 新型コロナウイルス感染の予後の悪さに 糖尿病 心血管疾患 高血圧が関与していることが 世界各地から報告されていました <糖尿病の新型コロナウイルス感染への関与> もともと糖尿病患者さんは 一般の感染症に罹りやすく 特に高齢の糖尿病患者さんでは インフルエンザ 肺炎などが重症化しやすいことが 報告されていました HbA1cが9%を越えると 重症肺炎のリスクが60%も増えるという 研究もあります @新型コロナウイルスへの感染しやすさ 糖尿病患者さんは 新型コロナウイルスに 感染しやすいし 重症化しやすいと 報告されていますが 感染しやすさは変わらない という報告もあります @重症化と予後 糖尿病患者さんが新型コロナウイルスに感染すると 重症肺炎や敗血症になりやすく ICUに入る確率 人工呼吸器を使う確率が 2~3倍高くなると報告されています 致死率は 糖尿病患者さんは 非糖尿病患者に比し50%も増加します しかし リスク因子としては 高血圧や心血管疾患の方が糖尿病より重いです このことに関連して 高齢の糖尿病患者さんでは 別のリスク因子である心血管疾患を起こしやすく 高齢者の糖尿病患者さんの予後の悪さに 関与していると考えられています @血糖コントロールと新型コロナウイルスの予後の関連 糖尿病の患者さんが新型コロナウイルスに感染しても 血糖コントロールが良好な場合は 不良な場合に比べて予後は良いことが 明らかにされています <新型コロナウイルス感染が糖尿病に及ぼす影響> 新型コロナウイルス感染患者における糖尿病の割合は 報告により値がさまざまで 8~9%という報告もあれば 20%近いという報告もあります @新型コロナウイルス感染の 既存の糖尿病への影響 既に糖尿病を患っている人が 新型コロナウイルスに感染すると 高齢者の2型糖尿病では高血糖が起こりやすく 1型糖尿病では 糖尿病性ケトアシドーシスが起こりやすいと 報告されています 新型コロナウイルス感染を起こして重症化すると 体内でのインスリンの必要量が増加するためと 考えられていますが 新型コロナウイルス感染が インスリン抵抗性にどのように関与するかは 明らかにされていません @新型コロナウイルス感染が 新たな糖尿病を誘導する可能性 新型コロナウイルスの受容体であるACE2が インスリンを分泌する膵β細胞にも 発現しているので 新型コロナウイルスがβ細胞に感染し その機能を低下させて 直接的に急性糖尿病が惹起される可能性が指摘されています <糖尿病が新型コロナウイルス感染のリスク因子になる理由> 糖尿病の患者さんが 新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい理由は いくつか考えられます @免疫能の低下 糖尿病になると 自然免疫 獲得免疫が低下してしまうので ウイルスや細菌に感染しやすくなります 具体的には 自然免疫の マクロファージや好中球の機能が低下し 獲得免疫の リンパ球の増殖が低下し 機能も低下します たとえ短期間の高血糖状態でも 自然免疫を抑制するとされています このことに絡んで 糖尿病だと ウイルス排除により長期間かかる可能性も 指摘されています @高血糖状態が肺の機能に及ぼす影響 血糖値が高いと 肺でのウイルス増殖が活発になり 排除が遅れるとされます 高血糖状態が 肺の機能や構造に影響を及ぼし 血管透過性 肺胞上皮機能が変化するためと考えられ 高血糖によるタンパク質の糖化による 機能修飾が関与すると推察されています @慢性炎症 糖尿病による高血糖状態 インスリン抵抗性が 慢性炎症状態を誘導し こうした状態では 新型コロナウイルス感染の病態が増悪すると 考えられています @血栓の起こりやすさ 高血糖状態 インスリン抵抗性により 血管内皮細胞の機能が影響を受けるために 血小板の凝集が起こりやすくなり 凝固と線溶のバランスが崩れ 過凝固状態になります 全身の血管での血栓形成は 新型コロナウイルス感染の増悪因子のひとつですから 糖尿病におけるこうした状態が 新型コロナウイルス感染の病態を 悪化させると考えられます 実際に 糖尿病の患者さんでは 炎症亢進状態 凝固促進状態にあり IL-6 CRP フェリチンの高値 凝固系の亢進などが認められます
高橋医院