新型コロナ・Tリンパ球の病態への関与
今週は 新型コロナウイルスの病態への Tリンパ球の関わりについて話題提供しました しかし世間では Tリンパ球より抗体の方が有名で注目されています <抗体信仰?> このパンデミックが発生して以来 検査やワクチンに関連する抗体が注目され 抗体検査を用いた「免疫パスポート」という コンセプトも生まれました 集団免疫ができているかも 抗体の保有率で評価されています 一方 その抗体が長続きしない可能性も報告され 心配する声も聞かれます こうした様子を見ていると 世間では ”抗体ができれば大丈夫だ”とか 逆に”抗体が消えてしまうならワクチンも無意味だ” といった 極端な「抗体信仰」のようなものが 蔓延しているようにも思われます しかし ここにきて 抗体に負けず劣らず Tリンパ球反応が 注目され始めています <抗体とTリンパ球> 何回かご説明しましたが ウイルスなどの感染微生物に対する免疫反応は 自然免疫と獲得免疫の2段階で構成され 獲得免疫は 液性免疫と細胞性免疫のふたつのパートで 構成されています 液性免疫の主役は Bリンパ球が産生する抗体で 細胞性免疫の主役は Tリンパ球です 抗体は 身近に検査キットがあったりするので 一般の方も 今度のパンデミックを機会に 馴染み深くなってきたと思いますが Tリンパ球は いったい何だ? と頭をひねっておられる方が多いでしょう ちょうどつい最近 Nature Reviews Immunology という格調高い雑誌に T cell responses in patients with COVID-19 というタイトルのレビューが出ましたので 今週のまとめとして紹介します <新型コロナウイルス感染症で見られるTリンパ球数の減少> まず 新型コロナウイルス感染症で見られる リンパ球減少について言及されます 新型コロナウイルス感染症では とくに重症例でリンパ球数の減少が見られ 回復すると元に戻ることが 報告されています リンパ球数の減少は 急性ウイルス感染症では よく見られる現象ですが 新型コロナウイルス感染では他のウイルス感染に比べ より重度で持続期間も長く Tリンパ球の減少が見られるのが特徴的です また 重症例では軽症例に比し 細胞障害性のCD8・Tリンパ球の減少が強く見られます どうしてこうしたリンパ球減少が見られるか その原因は不明ですが 重症例では Tリンパ球が過度に活性化されるために 疲弊した結果として減少するのではないか という推測もなされています <CD8・Tリンパ球の病態への関与> CD8・Tリンパ球は 細胞障害性Tリンパ球として ウイルス感染細胞の除去に関わります 新型コロナウイルス感染症の重症例では CD8・Tリンパ球の過剰な活性化があり それが病態に関与すると報告されています 一方 回復した患者さんの約20%では 新型コロナウイルスに特異的な CD8・Tリンパ球が見られ メモリー型の存在が確認されています <CD4・Tリンパ球の病態への関与> CD4・Tリンパ球は さまざまなサイトカインを産生し ヘルパーTリンパ球として Bリンパ球の抗体産生や Tリンパ球の分化に 深く関わります 新型コロナウイルス感染症では CD4・Tリンパ球の活性化や疲弊が見られますが 軽症例では重症例に比べて IFN-γを産生するCD4・Tリンパ球が多い という報告があります またリンパ球数の減少の程度は CD8・Tリンパ球に比べて軽度だという報告もあります 但し 感染の急性期でCD4・Tリンパ球の反応が 低下しているか 逆に活性化しているかは 明らかにされていません 一方 新型コロナウイルスに特異的な メモリー型のTリンパ球は CD8と同様 CD4・Tリンパ球も 回復期の患者さんの30~50%で認められています <Tリンパ球反応の強さと病態との関係> 重症例では Tリンパ球反応が 低下しているか 逆に増強しているか 明らかにされていません また Tリンパ球反応の強さは 人によりまちまちです 感染しているウイルス量やなどが Tリンパ球反応の強さに影響していると考えられますが なぜ 人により反応の強さが異なるのか 病期により反応はどのように変化するのか それがどのように病態形成に影響を及ぼしているか 明らかにされるべき点は数多く残っています <メモリー型Tリンパ球はどう関与する?> 新型コロナウイルス感染症で メモリー型Tリンパ球が どのように機能しているかは 再感染やワクチンに関わる重要なポイントです これまでの報告では 70~100%の回復期の患者さんで メモリー型のCD4 CD8・Tリンパ球が 認められています しかし これらのTリンパ球が 実際に新型コロナウイルスの感染防御に寄与しているかは 明らかにされていません また 重症例と軽症例で メモリー型Tリンパ球の動態がどう異なるかも 明らかにされていません これまで紹介してきたように 新型コロナウイルスに未感染の 風邪コロナウイルスに感染したことがある人にも 新型コロナウイルス特異的メモリー型Tリンパ球が 認められています <Tリンパ球は 実際にどのように病態に関与しているか?> このように Tリンパ球が新型コロナウイルス感染の病態形成に 関わっているという状況証拠は たくさん報告されています 交差免疫が存在する場合などは 感染の急性期において Tリンパ球の反応は抗体よりも早期から 抗ウイルス作用を発揮する可能性が考えられています また 抗体が存在しなくても Tリンパ球反応だけでウイルスに抵抗できるかも とても興味があるポイントです 実際にTリンパ球が 新型コロナウイルス感染の急性期や回復期に どのように病態形成に関わっているか 明らかにされていない点も多いのが実情です Tリンパ球の反応は 抗体のように簡単に評価できないので なかなか面倒くさいのですが 今後の解析が期待されます
高橋医院