肥満になると食欲がさらに増す悪循環
中央区・内科・高橋医院の 食事と健康に関する情報 肥満なヒトでは 食欲の恒常性調節に異常が生じていて 生体内の栄養・エネルギーが 充分な状態であっても 食欲が抑制されず 必要以上に食べてしまいます どうしてそんなことになるか解説します <食欲制御を司る視床下部で慢性炎症が起きている> 高脂肪食の摂取を続けたマウスでは 1週間程度で視床下部の弓状核に炎症反応が起きて 肝臓や骨格筋で インスリン抵抗性が起こるのと同様に 弓状核でレプチン抵抗性が 早期から起きてきます この現象には 肥満によって誘導される小胞体ストレスが 深く関与していて 炎症を惹起する NFkBやSOCS3などの転写因子が 活性化 発現されることによります 実際に 小胞体ストレスを緩和する物質が レプチン抵抗性を改善することが報告されています 小胞体ストレスとは 細胞内でタンパク質の品質を管理する小胞体が 機能不全を起こす現象で それにより炎症や細胞死が生じてしまいます この現象は さまざまな疾患の病態に関与していることが明らかとなり とても注目されています また稿を改めて詳しく説明しますので ご期待ください また 弓状核での炎症反応は 食欲抑制系のPOMC/CARTニューロンを減少させ αMSHの分泌が低下して 食欲抑制が起こらなくなります さらに 満腹中枢の室傍核へのシグナルに異変が起こり 食欲が促進し 腹内側核や外側核のシグナルに異変が起こり エネルギー消費量が減ります こうした 肥満で生じる視床下部における慢性炎症は 動脈硬化巣や肥満の脂肪組織で見られる慢性炎症と 類似しています 実際にヒトでも 肥満による視床下部の炎症が生じています <肥満は食欲の恒常性調節のみならず 報酬系調節系に異常も惹起します> レプチン抵抗性が 報酬系の腹側被蓋野・側坐核でも生じるので レプチンによる報酬系調節系の抑制が効かなくなり 快楽を求める食欲がさらに亢進します さらに 肥満したヒトでは 腹側被蓋野・側坐核における ドパミン合成・分泌量が減少し ドパミン受容体の量や活性の低下も認められます こうしたことから 食欲に対する依存性が発生して 食べても快楽が得られない 満足できないので さらにたくさん食べてしまうという 悪循環な状況になります <肥満になると 迷走神経の変化も認められます> 高脂肪食を続けて肥満になると レプチンだけでなく 食欲抑制性の消化管ホルモンのCCKに対する反応性も 低下します また 糖尿病では合併症として自律神経障害を認めますが それにより 迷走神経を介した消化管ペプチドの 情報伝達が上手くいかず 過食などの摂食調節異常につながっている可能性もあります 肥満による腸内細菌叢の変化も 迷走神経の変化に影響を及ぼします 腸内細菌叢変化による 炎症惹起性のLPS産生の増加が SOSC3発現を誘導してレプチン抵抗性を導き 腸管に炎症を惹起して 炎症が迷走神経や視床下部に広がっていきます このように 肥満になると *視床下部・弓状核で慢性炎症が生じ 食欲の恒常性調節に異常をきたし *腹側被蓋野・側坐核で ドパミンの量・活性の低下が起こり 快楽を求める食欲が増し *迷走神経にも異常をきたし 消化管ホルモンによる食欲抑制が効かなくなる その結果 さらに食欲が増して肥満が進んでしまいます まさに悪循環で なんともおそろしいことです 肥満の恐ろしさを 新たな視点から再認識させられます
高橋医院