NAFLDの病態生理・1
NAFLDシリーズの最後に 病態生理を解説します 数年前まで NAFLDの病態はTwo hit theoryにより説明されていました まず 肥満になり インスリン抵抗性が惹起されて 肝臓のなかに脂肪が溜まって NAFLになるのが 第1段階 この状態に なんらかのセカンドヒットが加わると 炎症や線維化をともなうNASHが生じる という 2段階発症仮説です 今日は 第1段階の 肝臓に脂肪が溜まってくるメカニズムについて 解説します まず 肥満になると 特に内臓脂肪組織内における 慢性炎症によるマクロファージ活性化と それに引き続く 炎症性サイトカイン ケモカイン産生や アディポネクチン産生低下が生じ インスリン抵抗性が認められるようになります この 病態の基盤としてのインスリン抵抗性により 肝臓に中性脂肪が溜まり NAFLとなります なぜ インスリン抵抗性になると 肝臓に中性脂肪が溜まるのか? *過剰に供給され 過剰に作られる *消費されない *排泄されない この3つの現象により 肝細胞内に中性脂肪が溜まります <過剰に供給され 過剰に作られる> インスリン抵抗性になると インスリンの効果が出にくくなるので 膵臓のβ細胞は インスリンの効果を得ようと たくさんのインスリンを分泌します また NAFLD状態での 肝臓のインスリンクリアランスが低下するので 血液中インスリン濃度がとても高い 高インスリン血症になります ここで ポイントとなるのが インスリン抵抗性の状態においても 糖代謝以外のインスリン作用は 保たれているということです インスリンは 血糖値を減らすホルモンですから 生理的状態では 肝臓での糖新生を抑制し 血糖値を上げないようにしていますが インスリン抵抗性があると 糖代謝への効果は減弱するので 肝臓での糖新生の抑制は弱くなり 糖が作られて血糖値がさらに上がります 一方 インスリン抵抗性でも インスリンの脂質代謝への作用は 保たれているので インスリンにより 脂肪酸合成を促進する酵素SREBP-1cが誘導され 脂肪酸の量は増えて それが原料となり中性脂肪になり 中性脂肪が肝細胞に沈着します また 脂肪組織では ホルモン感受性リパーゼ(HSL)により 中性脂肪が分解され 遊離脂肪酸となって血液中に出て 肝臓に運ばれますが インスリンは HSLの働きを抑制するので 脂肪組織の中性脂肪が分解されません しかしインスリン抵抗性では この抑制が効きにくくなり 脂肪組織から遊離脂肪酸が放出され 肝臓に供給されて 中性脂肪となって溜まります それでなくても インスリン抵抗性のために 高血糖となり過剰になった糖質は 脂肪組織で中性脂肪に変換され 脂肪の量が増えていますから 肝臓に供給される遊離脂肪酸の量は さらに増えることになります ということで インスリン抵抗性の状態では *肝臓に大量の脂肪酸が供給され *肝臓内で大量の脂肪酸が合成されるので それらが大量の中性脂肪になり沈着して 脂肪肝になってしまうのです もちろん 過食による中性脂肪の過剰流入も 肝細胞の中性脂肪沈着に貢献します <消費されない> 一方 NAFLDでは 肝内での中性脂肪の消費の低下が起きています 生理的な状態では 脂肪酸は 肝細胞のミトコンドリアで β酸化によりアセチルCoAに変換され TCA回路・電子伝達系でのエネルギー産生の材料となり 消費されますが インスリン抵抗性にともなう上記の機序により 肝細胞内に過剰に存在するようになった脂肪酸を ミトコンドリアが処理しきれなくなり その結果 脂肪酸の消費が低下して 中性脂肪が減らない 供給と産生は増加するのに 消費は減少するので ますます 肝細胞内には中性脂肪が溜まる一方になります さらに厄介なことに 過剰な脂肪酸処理でミトコンドリアが疲弊すると エネルギー産生の過程で活性酸素種(ROS)が 多量に産生されてしまいます 活性酸素種(ROS)は NASHを引き起こす 代表的なセカンドヒットと考えられていますから 事態はさらに悪い方向に進んでしまいます <排泄されない> さらに 高インスリン血症により 肝内の中性脂肪を血中に運ぶキャリアーの VLDLの放出が低下します 肝細胞内の中性脂肪は ApoB-100というタンパク質で出来た カプセルに入れられて VLDLというリポタンパク質として 肝臓から血液中に運び出されますが インスリンはVLDLの形成を抑制するので インスリン抵抗性により 高インスリン血症となった状況では 中性脂肪がVLDLとして 肝臓から排泄されなくなります このように インスリン抵抗性が存在すると 肝細胞内において 中性脂肪の材料の脂肪酸が *過剰に供給され 作られる *消費されない *排泄されない 状態となり その結果として 肝細胞内に中性脂肪が蓄積しNAFLになります 今日のお話では 中性脂肪と脂肪酸 ミトコンドリアでのエネルギー産生 ミトコンドリアからの活性酸素の発生 中性脂肪を運搬するリポタンパクのVLDL などといった あまり聞き慣れないことがたくさんでてきて 理解しづらかったかもしれませんが これらについては また詳しく解説しますので 今日のところは なるほど~ と流してください(笑) 次回は 炎症や線維化が生じる 第2段階について説明します
高橋医院