善玉ヘパトカイン
肝臓が 糖代謝や脂質代謝の制御に関与する ヘパトカインというホルモン様物質を 何種類も産生していることを説明しましたが 今日は 代謝調節に良い影響を及ぼす善玉ヘパトカイン を紹介します 善玉ヘパトカインの代表選手は FGF21とSHBGです <FGF21> FGF21は 主に肝臓で産生されますが 筋肉細胞や脂肪組織でもわずかに産生され マイオカインやアディポカインとしての 側面も有しています 白色脂肪組織での 糖 脂質代謝を調節し 脂質分解を抑制し *肝内の脂肪量を減らす *インスリン抵抗性を改善する といった作用により 糖質 脂質の代謝を改善させる善玉です 脂肪細胞から分泌される アディポカインとしてのFGF21は 善玉アディポカインのアディポネクチンに 類似した作用を有しており 肝臓が産生するFGF21も 同様の作用を持つと考えられています FGF21は アディポネクチンより上流で 肝や骨格筋でのインスリン感受性発現などの 効果を発揮していると 推測されています 飢餓状態で脂肪から遊離され 肝に取り込まれた 遊離脂肪酸の働きで発現増加するほか 種々のストレスによっても発現が増加します ただ 肥満 糖尿病 NAFLDといった インスリン抵抗性がある状態でも 血中のFGF21は増加しています にもかかわらず それらの病気のインスリン抵抗性は改善されません おそらく インスリンやレプチンと同じように FGF21も 産生されているにもかかわらず 効果が発揮できない 抵抗性のような状態になっている可能性が 考えられています このあたりの機序の解明が FGF21の善玉ヘパトカインとしての臨床応用の 鍵になると思われます <Sex hormone-binding globulin:SHBG> SHBGは テストステロンやエストロゲンなどの 性ホルモンと結合し その機能を制御するタンパク質ですが 肝臓のインスリン感受性を改善する 善玉ヘパトカインであることが 明らかにされました この善玉作用は 上述のFGF21と異なり 善玉アディポカインのアディポネクチンとは 無関係な作用です 糖尿病や生活習慣病では 血中SHBGは低値で より低値だと 糖尿病の進行が早まるとされています さらに 肥満により低下し BMIとは負の相関があります また血中SHBGが低いと 糖尿病や心血管病変の発症リスクが高くなる と言われています 肥満や糖尿病の病態を形成する 慢性炎症で増加する TNFαやIL-1などの炎症性サイトカインが SHBGの発現を低下させると考えられており 肝内の脂肪沈着が増えると 内臓脂肪量が少なくても SHBGの発現は低下します ですから NAFLDでは血中SHBG値は低い しかも 興味深いことに 生活習慣を改善して肝内脂肪量が減ると SHBG発現は増加してきます さらに アディポネクチンにより SHBG発現は増加します このように NAFLDや糖尿病ではSHBGが低下していますが これが原因なのか 結果なのか? NAFLDや糖尿病だから SHBGが低下しているのか SHBGが低下しているから NAFLDや糖尿病になるのかは 未だわかっていません またSHBGで興味深いのは そのオリジナルな作用である 性ホルモンの機能制御との関連です 女性は閉経後に女性ホルモンの エストロゲンが低下するので 糖尿病などの生活習慣病になりやすいことは 何回か説明しましたが 最近は女性ホルモンのみならず 男性ホルモンのテストステロンの 生活習慣病発症との関連も 大きな注目を集めています (この点については 近々中に詳しく説明します) NAFLDや糖尿病でのSHBGの低下により ホルモン作用を発揮する SHBGと結合していないフリータイプの エストロゲンやテストステロンが増加し 肝臓 筋肉 脂肪などへの 性ホルモンの作用が変化することで NAFLDや糖尿病の病態に影響するか? とても興味深い点で 今後の研究の進展が待たれます このように 善玉ヘパトカインは NAFLDや糖尿病では 発現低下したり抵抗性になっていたりで 作用が発揮できていないことから 善玉ヘパトカインの補充や抵抗性解除による 新たな治療法の開発が期待されます
高橋医院