酸っぱいパン
ライ麦の話を続けます その栄養価が注目されている ライ麦パンですが 日本では まだあまり馴染みがありませんね パン屋さんでも 片隅にちょこっと置かれているのが現状で 扱っていないパン屋さんも 少なくありません 一方 ドイツや北欧諸国など 小麦の生育が悪い国では 昔からさまざまなライ麦パンが作られていて 歴史ある食文化の一部となっています 色が黒っぽいことから 黒パンとも呼ばれます ライ麦には小麦と違って グルテンがないため 生地の伸びが悪いのが特徴です 但し 燕麦など他の麦と異なり ライ麦はグルテンを構成する因子のうちの グリアジンのみは持っているので 全く膨らまないというわけではありません 多少膨らむ分 ほかの穀物のパンに比べると まだ美味です でも 小麦のような ふっくらとしたパンはできない ライ麦を使うドイツパンの多くが 比較的固くてずっしりしているのは そうした理由によるのです その一方で 小麦粉のパンよりも 焼きあがった際の密度が高いため 目は詰まっていますが 水分の抜けが少ないので 日持ちが良いのが特徴です ライ麦パンの発酵には 小麦パンで使われるイースト菌でなく サワー種と呼ばれる 何種類もの微生物が共存した 伝統的なパン種が用いられます こうした発酵法では 乳酸を用いて発酵するうえに ライ麦粉の生地は 酸性化されると膨らみがよくなるため できあがった黒パンには ほどよい酸味があります 小麦とライ麦の 両方を含むパンがポピュラーですが ライ麦比率が高いほど 酸味が強く固いパンとなり 小麦を多くするほど 酸味が少なくやわらかくなります ちなみに 小麦の生産量増加や ライ麦パンを消費する国々の 経済成長などにより 時代が下るにつれて 小麦の混合量は多くなる傾向にあります そりゃ 固くて酸っぱいより 柔らかくて甘い方が人気があるのは 仕方がありませんね(笑) さて ドイツでは ライ麦と小麦の混合したパンが一般的ですが その混合具合によって種類が違い またライ麦も 粗挽きにするか細かく挽くかで 異なってきます ドイツのライ麦パンは ロッゲンブロートと呼ばれますが ロッゲンブロートは ライ麦配合比が90%以上と定められており ほぼライ麦のみによるパンです ライ麦比が89%から51%までのパンは ロッゲンミッシュブロートと呼ばれ 小麦の配合比の方が多い 小麦粉89%から51%までのパンは ヴァイツェンミッシュブロートと呼ばれます ライ麦パンを作っている 日本のパン屋さんでも ロッゲンブロートがあるのは比較的稀で ロッゲンミッシュブロートがほとんどです 書き手はいつも ドンクさんでロッゲンブロートを 購入しています そういえばご近所のパン屋さんの Cawaiiさんで ライ麦パンは作らないのですか? とうかがったら 国産の原料を使うのがお店のポリシーで 最近は国産ライ麦の価格が高いので 残念ながら作れません と言われていました あと 最近はスーパーなどで ライ麦入りの食パンを 見かけることもありますね さて 話を転がしますが 黒パンといえば ロシアです! 黒パンは 伝統的なライ麦だけで作られるパンで ロシアはドイツに比べても さらに寒冷で自然環境が厳しく 主力の栽培穀物がライ麦だったので 黒パンが ロシアにおいて まさしく食物の中心的存在と なりました 黒パン サワークリーム キャビア キュウリ そしてキンキンに冷やしたウオッカ 書き手のロシアの食事のイメージは そんな感じです(笑) 一方 北欧諸国のライ麦パンは 少し趣が異なり ライ麦で作られた 平たく乾いたクラッカー状の クリスプ・ブレッドが主流です 書き手が留学していたスウェーデンでは クネッケブレードと呼ばれ スーパーでもよく売られていました 留学して間もない頃 ランチにラボの同僚たちと 研究所内の学食に行き 「木曜日は豆スープの日だよ」 と言われて コーンポタージュのような豆スープに クネッケが数枚付いたプレートをもらい テーブルについた途端に同僚たちが クネッケを両手で乱暴に スープ皿の上で砕いて 美味しそうにスプーンですくって 食べるのを見たとき あ この国に来て失敗したかなと ちょっと思ったものです(苦笑) 幸いなことに そのあと 豆スープもクネッケも お気に入りになって 今でもときどき あの“組合せの妙”を味わいたいと 思うことがあります でも留学中は 白くてフカフカな 小麦パンのトーストを食べたい! と切望していたものです(笑)
高橋医院