どうすれば人の行動を変えられるか
カワチ先生は 最後に どうしたら人の行動を変えることができるかを 考えます <社会全体の健康を守る パブリックヘルス> ここで重視されるのが パブリックヘルスの考え方です 病気のリスクは 段々と時間をかけて積み重ねられるものなので 少しずつでもリスクを減らすように働きかけることが 重要になります パブリックヘルスの中心となるのが 前に紹介した ポピュレーションアプローチです リスクの高い少数の人より リスクが中くらいの大多数の人を ターゲットにする 小さな変化が 社会全体に大きな影響を及ぼす ひとりひとりが わずかに健康的なことをすることが 社会全体にインパクトを及ぼし 医療費削減につながる というアイデアです 病気が起きる“より上流の原因”に 働きかけることで 社会全体の健康を守ろうとする方法論 従来の公衆衛生学で行われていた ハイリスクアプローチは 個人には有用ですが 社会全体の影響は期待できないことは 既に説明しました しかし今でも 社会の健康づくり運動は ハイリスクアプローチの方法をとりがちで たとえば高リスクを規定する基準値を下げて 高リスクの病気予備軍を病気見做して 治療や管理を治療しようとします 先日紹介した 高血圧の基準値を下げるようなやり方です しかしカワチ先生は そんなことをしても医療費が上がるだけで 予防的な意味はないと言いきられます そうではなくて ハイリスクアプローチと ポピュレーションアプローチを 上手く組み合わせて働きかけをすることが 大切だし有効なのだと うーん そうなのですね 学会のガイドラインを信奉する身としては ちょっとビックリというか せつないというか(苦笑) パブリックヘルス的な具体的な方法としては *市民の啓蒙 *食品栄養分の開示 *タバコの害の注意喚起 などがあり 健康増進行為へのインセンティブの供与 逆に体に悪いものへの課税 健康的な食品に助成金を出す といったこと タバコ ジャンクフードへの広告規制 トランス脂肪酸の禁止 大容量の炭酸飲料の販売禁止 といった 法律 制度での規制 などが想定されています <人の行動は どうすれば変わるか?> 人の行動が変わらないのは その人の意志が弱いから 怠惰だから と 個人を責めがちで どうしても自己責任論が表に出がちですが 環境の影響の方が大きいので 社会の仕組みを変えていかないと 自己責任論では人の行動は変えられない パブリックヘルスが対象にするのは 社会全体であって その責任を個人に求めることはできない 個人の行動変容は 社会全体の枠組みを形成する中で 初めて実現可能になる ひとりひとりが 行動を変えやすくするための環境を整えることこそ 重要である とカワチ先生は強調されます アメリカ人は健康意識が高いのに なぜ不健康なのか? それは 行動変容を促す取り組みが 個人の思考や心理を重んじすぎていて 社会全体や他人からの影響に無関心だから 民間企業が利益のために 不健康だが感情に訴える有効な広告を 行っているから 人は理性でなく感情で判断するから 正しい情報を提供し 論理的に人々を説得しようと頑張っても 思うような効果が得られることはなく 人の行動を変えさせるためには 感情に訴えることが必要で そのためには 行動経済学を応用して 個人がより健康的な行動をとるような仕掛けを つくるべきである そして 何かひとつを究極に極めるのではなく 大切とされることを バランスよく行うことが大切で 個人一人一人の力に加え 集団の力が重要であると締めくくられます <どうやって日々の診療に取り入れるか?> 書き手はこれまでに 今回勉強したようなことは ほとんど考えたことがなかったので 正直言ってびっくりしました 書き手が行っている日々の診療は まさにハイリスクアプローチの実践ですが その過程で悪戦苦闘することも少なくありません 患者さん個人の自覚に訴えるだけでは 糖尿病や肥満のコントロールが上手くいかないことは 決して少なくない 確かにハイリスクアプローチだけでは 限界があると感じることもあります そういう場合は どうしてうまくいかないかを その患者さんを取り巻く社会環境にも配慮しながら 解決策を考えていくべきなのかもしれません カワチ先生も言われていたように ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチを 上手く組み合わせて働きかけをすることが 大切だと思うので ポピュレーションアプローチのことを 頭の片隅で認識しながら 目の前の個々の患者さんたちに 上手にハイリスクアプローチしていきたいと思います
高橋医院