新型コロナ・回復期血漿療法
新型コロナウイルスの抗体に関連する話題を いろいろと解説してきましたが 最後に回復期血漿療法を紹介します 回復期血漿療法は ある微生物に感染して 完全に治癒した患者さんから採取した血漿を 同じ感染で苦しんでいる人に輸血して 効果を得ようとする治療法です 古くからさまざまな感染症の治療に 試みられていて 感染から回復した患者さんの血漿には 原因微生物を攻撃する抗体が 充分に存在しているので これを感染中の患者さんに投与すると その人自身の免疫反応が高まるまでの間 一時的に抗微生物作用を得ることができて 効果が得られるのではないかと 目論んで行う治療です 実際に中国から 新型コロナウイルス感染症に 回復期血漿療法を行った 2つの研究論文が提出されています 最初の論文は JAMAというアメリカの質の高い医学誌に 3月27日に掲載されました ARDSという 非常に重篤な肺炎で苦しんでいる 5人の新型コロナウイルス感染症の患者さんに 新型コロナウイルス感染症から 回復した患者さんから得た 新型コロナウイルスに対する抗体を 量的に充分含んだ血漿を 2回にわたり計400ml投与しました なお 血漿中の抗体の中和機能は 充分に強いものでした 投与された患者さんたちは 既に種々の抗ウイルス薬や ステロイドの投与をされましたが 効果が得られていませんでした しかし 回復期血漿の投与を行うと 投与後3日目くらいから 臨床症状 検査値の著明な改善を認めました もうひとつの論文は これもPNASというアメリカの質の高い医学誌に 3月18日に掲載されました この研究では 10人の患者さんに わずか200mlの回復期血漿を投与して やはり投与後3日目くらいから 症状や検査値の著明な改善が得られ 新型コロナウイルスに対する抗体値は高く維持され 7人の患者さんではウイルスも消失しました また CT所見の改善も見られています これらの報告を受けて アメリカの病院では 緊急に献血者の確保に乗り出しはじめ 血漿輸血治療の試みが開始されました 但し 献血できるのは 新型コロナウイルス感染症から 完全に回復した人だけで 米国食品医薬局(FDA)は 血漿を採取するには 症状が治ってから14日間待つ必要がある と述べています 一方 カナダでは 合計40施設が中心となり 血液センターの助けを借り 1000例を対象に実施される 世界最大規模の臨床試験を開始する予定です 前回 新型コロナウイルス感染では 感染後に充分な効力がある抗体が 得られない場合があることを紹介しましたが 今回の論文を読むと 多くの回復した患者さんでは 量的にも機能的にも しっかりとした抗体が得られるようです 興味深いことに 現在 世界各地で治療に試されている薬が 効かない場合でも 回復期血漿療法は軒並み効果を発揮するようです 新型コロナウイルス感染症では 軽い症状だけで回復する患者さんが たくさんおられますから そうした方々にご協力いただいて 血漿を治療に使わせていただき 重症患者さんを救えるチャンスがあるなら 素晴らしいことだと思います 血漿を用いる治療なので 未知の副作用など 解決すべき問題があると思いますが 治療の選択肢のひとつとして 期待したいものです
高橋医院