マイオカインは肥満や糖尿病の薬になる?
骨格筋が分泌するマイオカインは さまざまな代謝調節作用を有しています 主な作用と その作用を有するマイオカインを列挙します <糖代謝への関与> @骨格筋への糖の取り込みを増加させ インスリン抵抗性を改善する *IL-6 IL-13 FGF21 @膵臓のβ細胞の増殖促進 *IL-6 @膵臓のβ細胞からのインスリン分泌促進 *Fractalkine(CX3CL1) @小腸や膵臓でのGLP-1分泌を促進し インスリン分泌を促す (運動によるGLP-1分泌増加がマイオカインにより説明できる) *IL-6 <脂質代謝への関与> @脂肪組織や骨格筋に存在する 脂肪酸のβ酸化を促進し 脂肪をエネルギーに変換する *IL-6 IL-15 BDNF FGF21 <抗炎症作用> @糖尿病の病態の基礎となる慢性炎症を抑制し インスリン抵抗性改善に寄与する (運動による抗炎症作用がマイオカインにより説明できる) *IL-6 CX3CL1 :抗炎症性サイトカインIL-10 IL-1ra sTNFRの産生増強と 炎症性サイトカインTNFαの産生抑制による <白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への分化促進作用> @脂肪を貯蔵する白色脂肪細胞を 脂肪を燃焼する褐色脂肪細胞へ変換する *イリシン FGF21 こうした *インスリン抵抗性の改善 *インスリン分泌の促進 *GLP-1の分泌促進 などは 糖尿病の病態を改善しますし 脂肪が燃やされることは 減量につながります また 白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞への分化すると 以前に説明したように 褐色脂肪細胞は 脂肪を燃やして熱産生を盛んに行うので エネルギー代謝を高めて減量につながります <マイオカインには 肥満や糖尿病の改善作用を有するものが多い> このように マイオカインには 肥満や糖尿病を改善してくれる作用を 有するものが多いので 近年 大きな注目を集めています そして 繰り返しますが これらのマイオカインは 定期的な運動や骨格筋量の増加により 分泌が促進されるので 運動が糖尿病や肥満の改善に役立つことが マイオカインという分子レベルで説明できる ことになります ちなみに ここまでの解説で IL-6がさまざまな作用に関わっていることに 気がつかれたと思いますが もともとIL-6は リンパ球が分泌する 抗体を産生するB細胞の分化に関わる因子として 発見・同定されましたが その後の研究により リンパ球以外にも 脂肪細胞や血管内皮細胞などのさまざまな種類の細胞が分泌し 多くの異なる生理活性作用を発揮することが判明している とても多彩な顔を持った物質です IL-6の受容体を抑制する抗体は リウマチの治療にも使われています IL-6がマイオカインとして骨格筋からも分泌され さまざまな代謝調節作用を発揮していることは とても興味深いことだと思います さて 話を本筋に戻して マイオカインが肥満や糖代謝を改善するという事実は マイオカインを用いた治療の可能性を示唆します なかでも肥満の治療で注目されているのが 白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への分化促進です しつこくて申し訳ありませんが 褐色脂肪細胞が増えれば 脂肪の量が減りBMIが減りますから 白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に分化させることは 肥満の治療に用いられるのではないかと 期待されています そして 白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への 分化促進作用を有するマイオカインとして イリシンとFGF21が注目を集めています @イリシン 運動後に増加するマイオカインで 白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へ分化させ エネルギー消費を増大させますから 肥満や糖尿病の新たな治療薬として期待されています しかし こうした現象はマウスでは確認されていますが ヒトの体内での 白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へ分化作用に関しては 現在のところ意見が分かれている模様で 更なる検討が必要なようです @FGF-21 運動により増加するマイオカインで 糖質や脂質の代謝に影響を及ぼし 筋肉への糖の取込みを促進させることで インスリン抵抗性を改善し 体重も減少させるとされています また 白色脂肪細胞における脂肪分解を抑制し 白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞へ分化を 促進する作用があります また 白色脂肪細胞からの 善玉アディポカインのアディポネクチンの産生を促進するので インスリン抵抗性の改善などの FGF-21のさまざまな代謝への影響は アディポネクチンに依存していると考えられつつあります こうしたデータを基に FGF21アナログ・LY2405319を用いた ヒトの糖尿病患者さんの治療が試みられていますが 実際に 体重減少作用やインスリン抵抗性改善作用が 認められているようで 新たな薬として期待されています 興味深いことに FGF-21は 骨格筋が分泌するマイオカインの1種ですが *脂肪細胞からも アデイポカインの1種として分泌され *肝臓からも へパトカインの1種として分泌され それぞれ 白色脂肪細胞に働きかけます また 肝臓から産生されるFGF-21 は 糖質コルチコイドの量を調整したり 脳に働きかけるといった 骨格筋や脂肪細胞から産生されるFGF-21とは 異なる作用を有しており 同じ物質なのに 産生される臓器によってなぜ作用が異なるのか とても不思議です、、、 ちなみに IL-15も 白色脂肪細胞からのアディポネクチン産生促進作用があり 褐色脂肪細胞を増加させ 肥満状態でのインスリン抵抗性の改善作用が認められています 以上 聞き慣れない因子の名前がたくさんでてきたし いろいろな作用の話もたくさんでてきて 読み手の頭の中を グチャグチャにしてしまったかと思い恐縮ですが 要するに 今日のお話のポイントは 骨格筋が マイオカインというホルモンを分泌しているだけでも驚きなのに そのマイオカインが 肥満や糖尿病を改善させる作用を有していて 一部は実際に ヒトの治療に用いられようとしているので 骨格筋が分泌するマイオカインは 将来有望ですよ ということです ホントに最近は この領域の進歩が速くて 専門外の書き手はついていくのが大変ですが 当院にたくさん通われている 肥満や糖尿病の患者さんにとって 将来 役に立ちそうな可能性が多く とても興味深いです かなりオタクな話題になり恐縮でした 申し訳ありませんです(苦笑)
高橋医院