活性酸素の有用な一面
これまで 活性酸素は 核酸やタンパク質などの生体を構成する分子を 傷害する悪者 と さんざん悪口を書きたててきましたが 最後に 活性酸素の意外な一面を紹介します 実は活性酸素は 細胞内情報伝達 代謝調節 免疫 排卵・受精 細胞の分化 アポトーシス といった さまざまな重要な生理的現象にも 関与しているのです <抗菌作用> 細菌感染時に 好中球などの食細胞で発生する活性酸素は 細胞のなかで細菌を殺すのに役立っています 食細胞内でNADPHオキシダーゼが NADPHから電子を受け取り酸素に渡すときに スーパーオキシドや過酸化水素が生成されますが これらが細菌を殺す張本人です <甲状腺ホルモンの合成> 甲状腺ホルモンの合成には 過酸化水素が必要となります 甲状腺ホルモン合成の最初のステップでは 甲状腺濾胞内に存在する サイログロブリンタンパクのチロシン基に ヨウ素が付加されますが この付加は 過酸化水素の存在下で 甲状腺ペルオキシダーゼが触媒して 起こります 次のステップの ヨードチロシン基の縮合反応にも 過酸化水素が必要です この過酸化水素は Duox1 Duox2という NADPHオキシダーゼに似た酵素により 甲状腺上皮細胞内で生成され この酵素に異常があると 甲状腺機能低下症が起こることが 明らかにされています 過酸化水素は 細菌を殺すだけでなく 甲状腺ホルモン合成にも寄与しているのです <シグナル伝達分子としての働き> 活性酸素の意外な一面として 最も大きく注目されているのが シグナルを伝達する分子としての 活性酸素の働きです @NO 既に解説したように フリーラジカルの一酸化窒素・NOは 血管平滑筋の弛緩 神経情報伝達 感染防御 といった場面で シグナルを伝達する分子として機能します @過酸化水素 こちらも シグナル伝達物質として機能しています NOも過酸化水素も 安定している分子なので 発生部位から離れた部位でも 作用することができます @酸化・ニトロ化され 化学修飾された 脂肪酸や核酸 さらに 活性酸素やNOで 酸化・ニトロ化され 化学修飾された脂肪酸や核酸が 親電子シグナルを有する セカンドメッセンジャーとして機能することも 明らかにされています 活性酸素や化学修飾された 脂肪酸や核酸は 反応相手から電子を受け取りやすく 相手を酸化させたり 正反対の化学反応性のある システインのチオール基などと 反応します チオール基が修飾されるタンパク質は それ自体が *細胞増殖・分化に関わる リン酸化シグナル関連酵素 *さまざまな遺伝子の発現制御に関わる 転写因子 といった 細胞機能制御に関わる機能分子や制御分子なので 活性酸素などによる修飾によって そうしたタンパク質の機能が 活性化・不活性化したりすると 結果として細胞の機能が変化してしまいます このように 活性酸素は 単に生体高分子を傷害するだけでなく さまざまな生命活動に関わるタンパク質の 機能を修飾する シグナル伝達分子として働く側面も 有しているわけです そして この活性酸素によるシグナル伝達に 異常が起こることが さまざまな病気の発症につながる と考えられ始めています 活性酸素の世界は 想像以上に奥が深いです
高橋医院